論文

第42回埼玉全国研究集会・分科会報告【第5分科会】 >>第42回埼玉全国研究集会・目次へ
経営指針作り 
埼玉会沼田道孝

1.予想を上回る参加
新人会の従来の研修の中で取り扱ったことがほとんどないテーマであり、新人会の会員がどのような要望を持っているのか今ひとつ掴めなかったので一番心配だったのが参加人数でした。ふたを開いてみると40人の参加を得られたことは望外の喜びでした。

埼玉中小企業家同友会の「経営指針作り」セミナーを主催したり、各地区会へ指針作りの援助に入ったりしている経営委員会の社長たちが参加するのでできれば25名以上はと思っていましたのでほっとしましたし、想像以上に関心があるのだという気がします。

また、何人かお世話になった古い会員の方もいて、いつもの取り組みを紹介するということを中心にどのようなレベルの報告にしたらいいのかも十分に揉まないうちの発表でしたから何とか無事に終わったかなと言うのが本当のところでしょうか。

2.会計事務所の経営関与について若干触れました
最初は、税理士法人第一経営の申告の実態調査から中小企業の現状に触れました。申告は、実態黒字がここ数年30%を少し超えるレベルでほとんど増えていないこと、社長の給料は増えるどころか今でも低迷して500万円未満が50%を超えていること、前年比売上の増減を見るといまだに売上の減少が続いていること。これらの報告をしながら、中小企業の経営環境の厳しさを指摘しました。

さらに、雑誌シリエズの最近の特集を出しながら、記帳代行会社の増加、記帳代行会社の記帳料が安いのは仕訳数量に応じて設定していることと、申告については重きを置かない関わりによると報告をしました。おのずと会計事務所と目的が違うが、記帳代行会社が増えている事実は指摘をしました。

また、顧問料の水準、顧客数の増減を示してシリエズの調査では顧客の増加傾向、顧問料の増加傾向があると報告をしました。その中に経営関与は含まれていない。つまり、経営関与はシリエズの調査をしても新しい顧問関与の要素として顧問料を引き上げる可能性を持っていることを示していることを報告しました。

3.埼玉の若い経営者の報告を頂きました
今回、埼玉の若い経営者の中で指針作りで大きく成長した姿を見せたいと、中小企業家同友会の全国レベルの研修会で発表者になっている株式会社ホーユーの太田社長に報告を頂きました。土木設計(道路や河川の設計)の会社ですが、ここ数年の間に経営指針作りのセミナーを通して経営理念を作成し、戦略や事業計画を作り社員と共有化を見事に進めてきた報告を受けました。

土木設計は公共工事がほとんどでサブゼネコンの下請けのような仕事がほとんどです。公共工事が減っていく厳しい経営環境の中でご多分に漏れず売上が下がり、社員のモチベーションも上がらない状況の中で指針作りに挑戦をして経営理念や方針・計画を社員と共有化することに力を尽くし会社を変えてきました。売上を伸ばし利益が出せる会社になりつつあります。

その勢いのある報告は、私が経営指針作りセミナーの責任者として7年も関わってきた喜びを表すものです。顧問先の関与の中で会社が眼に見えて変わることというのはなかなか難しいものですが、数年の間で大きく成長していく社長を見るのは本当に楽しいものです。

私は、辛口コメントで埼玉のセミナーでは有名で歯に絹を着せぬ批評で鳴らしています。税理士が、関与の中でお客様の経営の変化を作り出すことができて、お客様を元気にできる、このような関与ができればというのは誰もが思うのではないでしょうか。この会社の関与税理士は私の知っている同友会の会員の税理士で指針作りにも参加をしていましたが、まったく作る経過では声も聞いていないといっていました。税理士と経営関与古くて新しいテーマではないでしょうか。

4.指針作りセミナーの内容の紹介をしました
経営委員長の呉服製造販売の田中さん、建材販売の白石さんの二人が、指針作りの具体的な取り組み内容を紹介しました。経営指針作りとは「経営理念・経営方針(戦略)・経営計画」の三本の柱からできています。とりわけ経営理念に重きを置いて全体の半分ぐらいの力を入れて取り組んでいます。

というのも、社長自身が自身の存在価値や自社の魅力、社会的な貢献についての問いかけを行い、掴み取ることを目指すからです。社長が変わらなければ会社は変わらない。自分は何のために経営しているのかを掴むためです。まさに、社長自身の自己発見の旅と言っても過言ではありません。そこでは「科学性・社会性・人間性」の視点で自社のあり方を追求し社会に対する貢献、自社の存在価値を掴み確信にすることが求められます。

このような取り組みの中で、厳しい経営環境をしのいで経営に確信を持ったり社長が大きく変わる姿を幾つか見ています。社長と言うのは会社ではある意味自分の思うようにやっています。そのような社長が各種シートに悪戦苦闘しながら記入して自分の思いを描きそこから自社の姿をつかんで行きます。シートを見ながら様々なアドバイスをして、小さなヒントから確信を持ってもらうことができ、社長の納得する理念や計画が作り出されたときにはいろいろな意味で社長とも心が通い合うような思いを持ちます。まったくお金にはなりませんが指針作りの運動にのめり込んでいる理由がそこにあります。

埼玉では、独自に指針作りマニュアルを作ってそれを基本にセミナーを開催しています。当時コンサル会社のLCAのノウハウを持った中小企業診断士や公認会計士、TQCの研修を受けていた私や経験豊かな稲村経営塾を出た社長、経営心理学を学んで自社に取り組んでいる社長などが集まって完成させたものです。基本は同友会の指針作り運動の豊かな経験を1冊にまとめたものです。分科会後、本とCDが三組、本が1冊売れました。やはりやってみよう、研究してみようと思われたのではないでしょうか。

5.第一経営のISO取得支援サービスの報告をしました
第一経営のコンサルティング部門の伊藤さんより報告を受けました。そもそもISOを取得する意義や、第一経営ではどのような位置づけでISOを捕らえ利用しているか。取得までほぼ1年をかけてどのように進めているか報告を頂きました。私の会社の部門ですが実は始めて聞くものでなかなか勉強になりました。

ISOはその形式基準に振り回されてとりあえず導入すると言うだけでは重荷になったり経費の負担をするだけになってしまいます。ISOの仕組みを使って自社の目的に沿って組織をしっかり構築して一定の品質を確保したり環境負荷のない商品やサービスの提供など行うことを目的にするならばその手法を企業革新につなげることができます。現在の経営を実践する上での具体的な手法としては国際的な一つの到達点を示すレベルです。ものにすることができた会社は、他社との大きな違いを生み出す可能性をつかむ事ができるものです。

6.討論の内容
素朴な疑問シリーズ
・「埼玉中小企業家同友会」とはどのような組織ですか
中小企業家同友会全国協議会の若干の歴史と、三つの目的「いい経営者になろう、いい会社を作ろう、いい経営環境を作ろう」等を説明
・「ISO」とは何ですか
国際標準化機構、日本ではJISが取り込んで、各国で一つずつ認証機関を設けている。JISねじと言われるように一つの国際的な規格。民間の認証機関。現在は入札のための経営審査事項の評点アップに使われたりしている。と言うように回答
印象に残った質問
・8.9月号新報88Pの中で「ある意味税理士としての税務からの基本アプローチを封印して」とあるが、封印ではなく、私たちの関与の発展、延長線上にあるのではないか。何故、封印と言うような表現をしたのか
この質問が一番印象に残っています。ある意味、私の会社である第一経営の大きな壁を意味しているからです。第一経営は、2000年に会計事務所から経営相談所へという戦略を立てて試行錯誤を繰り返し、独自にISOを取得し逆にお客様へISOを提供できるまで引き上げて部門を確立しました。しかし、日常的な関与では相変わらず税額の計算が中心になるために苦労しています。その結論的な今の到達が、税務会計担当は、顧問先の会社を丸ごとつかむヒアリング能力を身につけ、ソフトで提供できる経営分析ツールの説明ができ、決算でお客様の課題抽出(簡便なSWOT分析=強み弱み分析)を行い、次期の事業計画、簡便な予算の提案までを基本サービスにしようと進めています。

そのために能力開発をどのように進めるか頭を痛めているのが実情です。そこまでを基本サービスとしても、指針作りはまったくできません。その程度では作れないのです。やはり、これも税務会計から離れて、経営に対する一定の基礎知識とお客様をつかみ力を引き出し、纏め上げて作り上げる力が必要です。税務会計のAの力量が経験ある税理士であるならば経営関与のAの力量も、お客様に実際に理論ではなく、ISOの取得支援ができる、経営指針作りができる力量が必要とされるのです。

たまたま私は、現在の第一経営が5つの事務所を持ち100人からの企業になっていますので、経営指針を作り、ISOの取得にも一貫して加わって取得に参加をしました。税理士と言う仕事は多くの所員に任せて経営関与の知識とスキルを磨いてきたと言えます。経営者であったためにできたといっても良いのではないでしょうか。それが前述の「封印」という表現になっています。つまり「専門家」レベルをどのように作り上げるかレベルをどのように捉えるかではないでしょうか。
・「ISOは、コストが高く、資料作りに時間がとられ、本質的なものを見失うデメリットがあるのではないか」
これも厳しい指摘でした。いわゆるISOは取ったけれども維持が大変で効果も実感できないというものです。確かに多くのコンサルタントが取らせるだけになっているのは事実です。しかしながら会計事務所がお客様に提供するとそのような関わりは許されないというのはたやすく理解できると思います。大元の信頼が崩れてしまうからです。ISOも自社の目的を鮮明にして「改革」をしっかりと目的意識化するともともとが試されずみの経営システムですので中小企業は大きな変化を勝ち取れます。ただ取ったのではもったいないと言うべきです。第一経営では、それぞれの企業の経営理念や現状把握を十分にしてその解決や理念をしっかり掲げることを柱にして取得を目指します。そこに質を変えお客様の信頼に応えられるように工夫をしています。
ほっとする感想
聞いていて、うちでもやれるところからやれそうだな。できるところから一歩一歩決算発表会を取り組んでみよう。
お客様の規模が小さくてこのままではうちの事務所も厳しい。コンサルタントなどと難しく考えないでやってみるのも手かなと感じた。
全体的にどこから聞いたらいいのかそこも良く分からないと言った雰囲気でした。しかし、こんなことをやっている事務所や関わっている税理士がいてツールがあるならできそうだ、経営関与を上手に顧問先に提供してみたいというような関心や手応えを感じるような雰囲気でした。

(ぬまた・みちたか)


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