論文

第42回埼玉全国研究集会・分科会報告【第3分科会】 >>第42回埼玉全国研究集会・目次へ
租税基本原則から見た課税上の問題点
神戸会國岡

1 はじめに
世間では憲法9条を中心とした改憲をめぐる議論がなされており、税理士も初心にかえり、憲法の視点から課税上問題のある項目を検討しようということから参加メンバー各人が討論テーマを設定したことが報告されました。

はじめの報告で、憲法上の租税基本原則が3つあることが文書で示されました。

一つは憲法84条の租税法律主義です。租税法律主義は、課税要件法定主義、課税要件明確主義、合法性の原則、手続的保障原則という4原則から構成されていること。

二つに憲法14条の平等原則を租税の面において表現したものと位置づけられる租税公平主義です。租税負担配分は国民の担税力に照らし平等でなければならないという税負担配分に関する原則です。

三つは憲法94条の地方公共団体の権能で、法律の範囲内で条例を制定することができ、自治権の一環として課税権を有し、自主的に財源を調達できるという自主財政主義という原則です。

今回の分科会では、3つのうち、租税法律主義と租税公平主義に関連したテーマを討論し、最後の自主財政主義に関して、「地方行政と税(財政)」と称して特別研究、さらに「天皇家の財政」という特別研究の二つが分科会参加者に配布されました(後日、税経新報に投稿予定)。

分科会報告チームからテーマを絞って約90分間、報告と問題点の提起がなされ、休憩後、報告された課題ごとに討論が深められました。以下、テーマごとの討論を紹介します。

2 更正の請求問題
(1)現行の更正処分期間に比べ、1年という更正の請求期間の制限は公平ではなく、増額修正も減額修正も納税申告によって修正すべきであるという報告者の提起に対して、更正の請求制度にとって、修正申告一本化を提起しているのか、期間制限が問題なのかという質疑もあり、更正の請求期間は3年ではなく5年の期間制限に延長すべきという意見をいただきました。参加者も期間制限の延長が妥当な意見という状況でした。

(2)以前は明らかに納税が過大であることが判明した場合、1年分を更正の請求制度で、その以前分は嘆願書で還付してくれましたが、情報公開法が成立後、嘆願書では還付されなくなったという経験が参加者から報告されました。その要因を確認すると、「そのような還付方法が法律にないから、だめになった」という取扱いに変わり、嘆願書を提出しても形式的に無視されているということも報告されました。

(3)義務づけ訴訟に関しては、今年度の国税通則法改正で、当局が解釈等を変更した場合には、2ヶ月以内に更正の請求ができると手当てされたので、意味がなくなったことも指摘されました。

3 源泉徴収制度について
(1)源泉徴収制度は、現行の租税制度の中に深く浸透しており、国、支払者(徴収義務者)、受給者(税負担する納税義務者)の三者構造によって混乱やトラブルを引き起こし、制度面でひずみが現れているので、報告者から簡素化、合理化が必要であるという趣旨説明と源泉徴収制度の見直し案が提起されました。見直し案の具体的内容は、新報8・9合併号82頁に掲載されています。報告者がこのような見直し案を提起するのは、受給者が確定申告をすることによって、納税者として税痛感を味わい、税の使い道等に関心を高める機会になることを期待してのことであります。

(2)簡素化という視点から、利子・配当、給与、年金の所得に限定して源泉徴収を行うという範囲を限定するという提起です。また、受給者は全員確定申告を行うという見直し案の提起に対して、受給者全員が確定申告をすることに関して、参加者から次のような意見が出され、源泉徴収制度の問題点は認識されていますが、制度変更後のあり方にはまだ意見が分かれていることが認識できました。
年末調整をせずに、受給者全員が確定申告を行うのは大変な作業であり、デメリットである。しかも、行政側も大変である。確定申告をしない層もかなりでるのではないか、という年末調整廃止、確定申告一本化に危惧する意見が発言者の中に多くありました。
給与所得者に対して、特定支出控除を拡充する方策を検討したらどうか。年末調整による扶養親族控除の判定というプライバシーも理解できるので、年末調整と確定申告との選択適用を認めたらどうかという意見もありました。
年末調整に対して、事業所の負担が大きい。納税義務者(納税者ではない)は痛みを知るべきである。したがって、納税者は確定申告すべきという意見もありました。
公務災害が認定され、給与カット分が後日補てんされた際、一時金の支給があったとして多額の源泉徴収がなされた事例が紹介されました。平成16年に補てん額が800万円出たが、源泉税ほか500万円控除された。この800万円の確定時は平成15年12月であること、15年には他の所得700万円もあり、その年1500万円に対して源泉徴収された結果であること。事案の相談を受けた税理士が国税庁のホームページの類似質疑事例から判断して、給与支払日に従って5年間で計算すべきものとして再計算した結果、95万円の過大差額が出たこと。支払者に対して還付手続を申し出たが、支払者に解釈する権限がなく、当初源泉徴収の際、支払者が問い合わせた税務当局に直接尋ねた結果、権利確定主義に基づき、各年に計算することになり、94万余円還付されることになったそうです。しかし、この還付金には還付加算金がつかないことも明らかにされました。

4 役員給与の損金不算入制度批判
制度批判に関する理論は、報告者の文書どおりということが参加者の発言で確認されましたが、参加者の関心は、この制度に対する法律ができる過程に問題があり、制度提起される前後の運動論に問題があること、小企業に新たな税負担が集中することの問題と今後の対処法などに議論が集中しました。
政府税調に税理士会から委員が出ているのに何故論議ができない位の急浮上になったのかという疑問。
役所出身の税理士は事前に把握できていたのに何故公表しなかったのかという疑問(後日談:役所出身者である学者等には財務省がかん口令を敷いていたこと、破れば、その後の情報が入手できない)。
税政連の情報把握も遅かったなど、今回の改正税制に対する取り組みの問題点が明らかにされました。2年前の不動産売買の遡及立法と同じく、税の専門家たる税理士会の建議権等がないがしろにされている現状の危機感が参加者に共通認識としてありました。

5 消費税の益税問題
(1)「益税」というものがあるのか?という疑問とともに、課税仕入れがあるのに無認可保育所では非課税扱いから消費税の負担を負っている矛盾が存在する。非課税扱いするのであれば、全額控除すべき(=課税仕入れ分を還付するとかの意と推測)という意見があり、消費税の仕組みに問題があるという指摘でした。

(2)益税というのであれば、もっと別の問題もあるという視点から、事業者の自家消費部分の消費税を否認すればよいではないか、と問題提起もありました。
この意見に対して、
事業者は収益獲得行為を行っており、消費行為ではないからすべて仕入控除で当然であるという反論もありました。

(3)報告者の課税売上高割合が95%以上の場合、仕入税額の全額控除は廃止されるべきだという提起は同意できるが、「益税」というネーミングはまずい、「過大控除」とかネーミングを検討すべきという意見もいただきました。

(4)源泉徴収制度の報告文書中の「昭和15年所得税法改正では、総合所得税以外に6種類の分類所得税を設定した、真の狙いは、所得税の負担を多数の納税者に『広くうすく』求めることにより、所得税の大幅な増税を図ることにあった」という点に触れて、消費税導入時と同じ表現が使われており、大衆増税は一環して変わっていないという指摘もありました。

6 地代の帰属年度他について
(1) 沖縄米軍基地に対する地代収益の帰属年度に関する判例について報告がありました。

これは、10年分の賃料相当額の損失補償金が支払われた場合、これを受領した年分の総収入金額として一括計上すべきか、それとも土地の使用に対応して各年分ごとに計上すべきかが争われた事案です。最高裁まで争われましたが、結局、反対派地主が土地収用法により受けた10年分の収入は一時の総合課税という扱いを受ける一方、連年の土地使用を許諾して貸し付けた地主は各年度課税となって、反対者に対して過酷な重税となった事例です。

報告者は、各年度ごとの権利確定主義に基づく課税ではなく、このケースのように管理支配基準を重視して、一時に課税されるという重税の圧力で収用促進の効果が起きることをどう考えるか、という提起をしました。

(2)参加していた沖縄会の会員は、この事案に関して、地主は平均課税を適用して申告しているが、未だに当局は更正をしていないという実情が報告されました。

(3)報告者がもう一つの事例(ホームレスの住所と生活保護、住民税均等割り課税をどう考えるか)を報告しました。大阪市がテントの所在地を住所とした転居届を受理しなかった件を区長の不当処分取消し訴訟の結果、大阪地裁が「テント所在地は住民基本台帳上の住所と認められ、市は転居届を受理すべきだ」と指摘、受理しなかった処分を違法として取り消し、異例の認定を判決しました(06年1月27日)。原告弁護士は「住民票がないと選挙権も行使できず、生活保護も受けられないのが実情だ」とこの判決を評価する一方、大阪市は「生活の実態を判断する基準が不明確だ」と困惑していると報じています。

 この事例に関しては、参加者から特に意見がありませんでした。
以上、分科会の討論内容を紹介しましたが、少し討論すべき課題が多すぎたのか、討論時間を休憩もはさまず、2時間余り進行したので、参加者がお疲れになったのか、時間の最後の方では意見が少なくなりました。今後の分科会運営の反省にしたいと考えています。若い報告者の問題点の提起に対して、柔軟に受け止めていただき、かつ、真剣に討論していただきました分科会参加者に感謝いたします。ありがとうございました。

(くにおか・きよし)


▲上に戻る