論文

第42回埼玉全国研究集会・分科会報告【第1分科会】 >>第42回埼玉全国研究集会・目次へ
所得税の必要経費の考察
東京会 松田周平

I はじめに
今回の東部ブロックの発表チームは、去年の暮れに編成されました。メンバーは6人ですが、ブロックの例会に集まりをもったので、内容についてはブロックの英知を結集?したつもりでした。資料の編集等でもメンバー以外の会員からも意見・協力を戴きましたので、6人だけの力でなかったことを最初に報告しておきます。

II 報告を終えての感想
以下は私(松田)の感想です。私が司会を勤めましたが、進行の難しさを感じました。討論の時間では、最初の3人が論客だったので方向が逆になりました。私としては最初に必要経費、損益通算等、実務的な内容について意見交流をしたかったのですが、質問の内容を絞りながら進行した方がよかったかもしれません。それでも給与所得控除については、時節柄タイムリーな討論ができたと思います。

なお分科会に参加した方の感想として難しかったという声が寄せられました。後で出ますが、給与所得控除の4つのファクターの一つである勤労性について、私は知っていて当然との前提で進めてしまいましたが、ブロックの例会でも初めて知ったという意見がありましたので、もう少し掘り下げた説明も必要でした。政府が意図的に、必要経費の概算控除性しか説明していない情勢のなかで、勤労性をもっと知らせる必要を感じました。

III 討論の内容について
以下項目ごとに整理してみました。

(1)給与所得控除について
昭和31年12月の臨時税制調査会で、給与所得控除の性格について次の4つが指摘されました。勤労性控除必要経費控除利子控除把握控除です。

は給与所得は従属した労働の対価なので、資産所得と比べると質的担税力が異なる。自分の身体以外に所得の源泉をもたないので、担税力は弱い。それを調整する必要から生まれた。

は大島訴訟で、サラリーマンは雇用主に従属的に労働しており、経費は雇用主が負担しているから必要経費はないという主張もあったが、今では必要経費は当たり前となっている。

はサラリーマンは毎月源泉徴収されており、確定申告者と比べると納付時期が早い。当時金利は6〜7%だったので無視できない状況であった。

については、所得の把握方法が他の所得者と違う現実のなかで、捕捉率がどの程度あるかに拘わりなく立法上の手当をする必要があった。

この性格について、これらの立法事実を知りながら意図的にの性格しか指摘しない学者等を批判する意見は迫力がありました。高額な報酬については企業利益の分配という性格であり労働の対価ではなくなっているので、青天井と言われる給与所得控除の際限ない5%の控除は必要ないという意見。事業所得者には少子高齢化社会の原因である子供を産めない経済的状況にある個人事業者にも勤労控除を認め、人的控除を引き上げ解決すべき、また視点をかえて言うと例えばローンを組む時、給与所得者は収入金額で、事業所得者は所得金額で判定されるが、それはおかしい。個人事業者にも勤労控除を認めるべきであるという意見がありました。

給与所得控除をの部分を明確に金額的に区別して、については事業所得者にも実額の必要経費とは別に認めさせること、そうすれば所得税法56・57条との関連もありますが、小企業の法人成りも減少し、いわゆるオーナー課税も必要なくなるでしょう。また給与所得者の特定支出については政令で範囲を限定せず、実額の必要経費を認めさせ、それとは別にをプラスさせる法体系が必要と感じました。の性格をもつ給与所得控除に対して、必要経費(特定支出)だけで対抗してもかなうはずはないでしょう。
(2)必要経費と損金の違いについて
個人事業者の必要経費と法人の損金についてどうすべきか、本来的には同じでなければならないと考えていた。ところが一般には法人有利になっている。なぜなら個人には必要性概念が経費に入ってくるので結果として狭くなっている。個人の支出は必要経費家事費家事関連費の3つに分かれるが、必要性によってが否定されると結果としてになる。しかしの道として時期がずれても翌年以後に対応する繰延経理もあるべきである。法人税と所得税が別法になっているのでこういう矛盾がある。一本化すべきという意見がでました。

現場からの声としては、自主申告納税制度は納税者性善説に立っている。必要性があるかないか分からない。飲食費関係は業務に関連があればそれなりに認めているという意見がでました。

終了間近になり、一つの報告が出されました。あるお医者さんの申告で患者さんが亡くなった場合の香典について、来院の頻度によって香典をランク付けしていた。ところが死亡により今後経済的取引がなくなるので、必要経費を否認してきた事例報告でした。会場から大きなどよめきが起こりました。署は更正したのかという会場からの質問に、自分の事案でなくどちらかというと署と友好的にしているところの事案で、詳細は分からないとのことでした。経済的取引は親族を通じ今後も続き、病院の評判もよくなるので認められないことはおかしいとの意見で一致しました。私としては、最初の方でこういう事例を出してもらえれば討論の方向も違っていたと思いました。地方の事案でしたが、税理士が馬鹿にされているとの声が洩れ聞こえました。
(3)雑所得の損益通算ができないこと
所得税法で所得を10種類に分類したのは、その性質に応じて所得の質的・量的担税力を測る目的がある。雑所得は偶発的・例外的な所得であるが規模や地域におうじて差がでている。小規模な農家は大体マイナス、事業的でないと通算しないが、あいまいな規定なのでおかしく感じている。署員によってもかなり対応が違う。5棟10室といってもいい加減。地域性による違いもある。たとえばの話として、家内の住宅を親族に貸していてある時それを取り壊す。その時に資産損失が発生するがそれが良いかどうかという問題もある。
(4)56条について
現段階においては労働の対価として払うことは当然で、「妻税理士事件」についても裁判になること事体がばかばかしい議論である。憲法14条の法の下の平等に違反しており、不合理な差別、時代錯誤だ。税率の累進性が下がってきているので家族給与もそれほど問題なくなってきている。という意見があり、またこれとの関連で、一人親方の申告の場合70年代までは給与所得控除部分と必要経費部分とで両建てで認めていたが、今は大変になってきている。それは消費税の仕入税額控除にも影響しており、実際雇用しているのに派遣社員、外注化しており、今のまま定着させたら日本の社会を壊してしまうという意見もありました。

(まつだ・しゅうへい)

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