時潮

金融行政と証券税制
税経新人会全国協議会組織部長清水裕貴
またしてもというべきか、確定申告に入ろうとするまさにその時期に、去年と同様「ライブドア」と「ホリエモン」はマスコミに登場した。この若者はここ1年、ニッポン放送株の時間外取引での取得からはじまり衆議院選挙への刺客としての立候補と時代の寵児のように取り上げられ、はなばなしい活躍をみせていた。

傍で見ている我ら観客には、マスコミに露出しながら次々に企業を買収し「コングロマリット」を構築していくその意図とからくりが一体何なのか理解できなかった。突然の逮捕劇はこの若者がここまで突き進んできた舞台装置を衆目にさらしてくれた。事件を掘り下げてみようと思い、株価をつり上げるために市場を欺いたり、虚偽の事実を公表した逮捕容疑を証券取引法の条文で確認してみた。

第158条「何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引…等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い…てはならない。」第197条「次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。…七…第158条…の規定に違反した者」このように定められていた。

証券取引法は有価証券の発行市場や流通市場での規制をこと細かく定めている。税法と同様毎年改正される。中小企業を顧客とする税理士にとっては、上場をめざす発行市場での業務はあまり関わりがないと思えるが、こと流通市場の開示や取引に関する事項は、証券市場で事件が起きたなら、会社法や証券取引法の根拠となる条文に当たってみる必要がありそうだ。なぜなら顧客からの株式の相談もあり、何らかの知識の習得を我々も余儀なくされているからである。

ライブドアはじめIT企業の知名度も上がり、預金をしようにも金利が実質ゼロならいっそのことと、にわかに株式投資家がふえている。株式売買額の4割は個人取引であり、そのうち半分を証券会社から資金や株券を借りる「信用取引」が占める(朝日新聞06年2月25日)というから、ひと昔前の株式取引は機関投資家がほとんどで、個人投資家は少なく、いても高額所得者が中心だといった固定観念は捨てなければならない。明らかに、インターネットの普及、情報技術の進展を背景に、いままで株式投資になじみのなかった人達まで参入し始めている。東証のシステムがダウンするほど注文が押し寄せる事態は、株式の大衆化と言っていいだろう。

バブルが崩壊して金融機関は不良債権処理に長く苦しんできた。政府は公的資金を投入し大銀行を救済するとともに、預貯金中心の個人資産を「貯蓄から投資へ」のスローガンで株式市場へ振り向けようと金融行政で誘導した。規制緩和によるなりふりかまわぬ株価対策がその内容である。例えば01年10月施行の商法改正で自己株式の取得・保有を容認する「金庫株」の解禁を行った。同時に株式を購入しやすくするため、分割後の1株当たり純資産額が5万円を下ることはできないとする規制を撤廃した。

このおかげで純資産の少ないライブドアが「株式の分割」をくりかえすことができた。株価を上げるためには証券税制もゆがめられた。株式譲渡益課税の場合02年12月末で源泉分離課税が廃止され、申告分離課税に一本化され簡易な納税制度として特定口座制度ができた。そして上場株式等なら03年から07年までの税率は所得税7%住民税3%の10%に引き下げられた。上場株式等の配当課税も04年1月から08年3月までは所得税7%住民税3%となり10%の源泉徴収を受ければ金額にかかわらず申告不要となった。

上場企業や新興IT企業に都合がよい金融行政は国民を投機に引きずり込み、金融所得だけを優遇した税制は不公平を増した。規制緩和は万能ではない。社会に必要な規制は強化し、不労所得には重課する税制がなければ、勤労や物づくりを尊ぶ気風は生まれない。貯蓄ゼロの世帯が全体で23.8%(金融広報中央委員会調査)に達し、約4世帯に1世帯は貯蓄がない。国民が疲弊し、追いつめられている。もはや「貯蓄から投資へ」どころか、貯蓄ができる環境をつくることこそ金融行政や税制の役割なのである。

(しみずひろたか:東京会)

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