時潮

目から鱗の所得税基礎控除の変遷
税経新人会全国協議会研究部長松田周平
今からもう20年近く前になるが、所得税の基礎控除の法的意味と歴史的変遷を知った時の私は、この状態だった。

1965年の基礎控除は127,500円。当時基礎控除額の算定に当たっては、大蔵省メニューという成人男子が健康な身体を維持できる為の献立を基に一年間の食費を算定し、次にエンゲル係数で除して最低生活費を求めていた。このメニューによる20〜27歳の年間食費60,096円、年間生活費185,025円。政府は一日2,500カロリー摂取できるようにその献立を国立栄養研究所に依頼した。その献立は春夏秋冬別に作られており、例えば春の献立は、 朝:ごはん(170g)・京菜のみそ汁・やきちくわのおろしあえ・たくあん、 昼:なっとう・チャーハン・京菜のおひたし・たくあん、 夜:ごはん・いかと野菜のみそに・わかめのすまし汁・たくあん・リンゴとなっている。

驚きに輪を掛けたことは、それ以前の計算方法である。それはマーケットバスケット方式と呼ばれ、その名のとおり最低生活に必要な飲食物・衣料・入浴料・理髪代等の品目を一つ一つ積み上げて算出した。「やれば出来るじゃん」という驚きを今でも鮮明に覚えている。現在この方式で計算した場合、松田のバスケットは最低でも100万円、否税込で105万円にはなるだろう。消費者物価指数を比較すると、65年を100とすると05年は約406(松田試算:バブル崩壊後はほぼ横ばい)。事実77年の290,000円まで基礎控除額はほぼ毎年上昇していた。もし65年当時の基礎控除額が適正であったとすると現在の適正基礎控除額は53万円である。尚当時の標準世帯の生計費は年975,326円で、大蔵省メニューでは人間よりチンパンジーの方がましだという批判があったことを付記する。

言うまでもなくこれらの方法は、生存権を規定した憲法25条に基づく要請であり、金額の多寡は別として評価すべきだ。配偶者特別控除・老年者控除が廃止になり、更に配偶者控除の廃止・扶養控除の縮小も論議されている現在、これらの人的控除については専ら財政上の要請から決めて、国は憲法からの要請を放棄している。百歩譲ってそれが止むを得ないことだとしても、何年後かには憲法の要請を果たせる金額になるようシミュレーションし、それを今後実行していくことが国の責任である。

(まつだしゅうへい)

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