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ー 特集地方税財政改革・三位一体改革 ー |
三位一体改革の内容と問題点 |
〜所得税から個人住民税への税源移譲〜 |
経済評論家熊澤通夫 |
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(2)
所得税から住民税への税源移譲は、金額のみに限らないで、両者の機能分担を明らかにしておこなわれた。
すなわち所得再配分機能、景気調整機能は、国税である所得税にまかせて、個人住民税は「応益」、「負担分任」に徹し、もっぱら自治体の財源確保に充てるとするものである。
このため「応益原則」による「広く負担する」ことと自治体間の財政調整を理由から10%の一律税率が採用された。
この機能分担の考え方が立法にあたってどの程度反映するものとなるのかは法案を見なければ明確にいえないが、これまでの経緯からみて第一に応能原則を「否定」して「応益原則」とすることによる大衆課税強化への危険性が強く、第二に均等割の大幅な引き上げに道を開き、第三に課税自主権を制約する危惧がある。
すなわち地方公共団体は住民の身近な事務事業を行っていること、あるいは生活の場を住民の負担で支えあうなどの理由から、通説では、地方税が国税と異なる租税原則をもち、応益原則と負担分任もその一つになっている。
しかし、第一の応益原則の間題である。地方公共団体からのサービスの「受益」に対して「対価」を負担する関係に課税の根拠を求める「応益原則」のみを、物税ならともかく、地方公共団体から受けるサービスの「受益」と直接の関係が薄い個人所得を課税対象とした住民税所得割に適用できるものかどうか疑問がある。
くわえてわが国の個人住民税の場合、個人所得課税で決定的な意味をもつ所得計算の内容と方法が地方税法でほぼ画一的に決められていて、地方公共団体の自主決定権はないに等しい。
とくに昨年6月に税制調査会が公表した「個人所得課税の論点整理」(以下、「論点整理」)では、累次の改革により貧困層に課税する水準まで低下した所得税の課税最低限をさらに引き下げ、個人住民税のそれはさらに低くする構想を示している。
さらに筆者の読み込みすぎになれば幸いだが、所得税でアメリカ、イギリスが採用した子育てのために負の所得税を採用するときがあっても、個人住民税は所得税と性格の異なる税として、影響を遮断されることにもなる。
このように個人住民税に対する課税原則の「応益課税・負担分任」への「純化」は、個人所得課税全体でとらえると、貧困層への課税を含む大衆課税の強化であり、所得再配分機能の一層の劣化となる「原則」となる。
くわえて第二の均等割の問題である。応益原則、負担分任といっても内容には様々な見解があるのだが、個人住民税均等割についてこれまでの政府、税調の主流となる考え方を括っていえば、地方公共団体が提供する様々なサービスへの対価、あるいは「会費」に擬制され、人頭税である均等割こそが「住民に均しく与えられるサービス」への「対価」あるいは「会費」としてもっとも相応しい地方税であると位置づけられてきた。昨年6月に公表された「論点整理」もこの見解を踏襲して、過去の国民所得の伸び等を指標とした大幅な引き上げを求めており、「与党平成18年度税制改正大綱」は「検討事項」に均等割引き上げをあげている。
第三の課税自主権の問題である。税源移譲にあわせて個人住民税の標準税率を一律10%に比例化したが、それに先だって制限税率を廃止している。このことからこの税の税率操作権が都道府県、市町村に移ったようにみえる。
たしかに制限税率廃止自体は課税自主権の拡大であろう。しかし条例で、一律10%の税率を一律11%にすることは可能だが、一定所得以下の階層に対して軽減税率で課税し、逆に一定所得以上の階層に対して割増税率を適用する不均一超過課税を定めようとしても、これまで述べた「原則」により一律税率が定められるのだから、国の同意が得られるかどうかはきわめて疑問( 注4)である。
この結果、いまの地方税財政改革がすすむならば、住民の死活に係わり、本来ナショナルミニマムとして国が措置しなければならない課題であっても、「ローカルオプティマム」として住民の選択に委ねられ、住民の負担による事業とされる状況が生まれよう。その事業を自治体が起こそうとするとき、財源を大衆課税強化による個人住民税税率一律引き上げ(均等割を含む)に求めることになる。しかしそれは低所得者の負担能力に制約されざるをえないのだから、個人住民税の課税自主権行使は困難なものとなろう。 |
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(3)
しかもこの改革は現在、自治体が抱える財政上の間題をさらに深刻なものとする。
第一は地域間経済力の格差と税収格差である。一律税率採用の理由として、高所得者の多い、たとえば東京が他の地方公共団体より増収割合の高くなる「東京一人勝ち」を緩和する調整措置であるとも説明されている。たしかに現行税率を適用した場合、東京都への移譲額は約4,800億円、移譲額に占める割合が16%になるのに比べて、一律10%とした場合には約3,000億円、10%( 注5)になるから、移譲額が「均てん」されることは事実である。
しかし三位一体改革では、中央政府から地方公共団体への財政資金移転額が、さきに見たとおり、税源移譲額を超えて削減されていることに注目しなければならない。
具体的影響は個々の地方公共団体の財政の変化を調べなければ明らかにならないが、一般的に次のことはいえる。
たとえば都道府県別に道府県民税の課税所得を見ると、全国平均を100とした場合、最も高い東京都が136、沖縄を除く都道府県で最低の宮崎県が69というほど地域間の経済力を反映する絶対額に差がある( 注6)。貧しい地域の税収はやはり貧しいのであって、税源移譲が経済力格差による税収格差を変えるものではない。
すると経済力が豊かな地方公共団体は、税源移譲額による増収額が補助金・交付金削減額より多くなる(典型的には不交付団体である東京都)が、補助金・交付税への依存度が高く、税収の乏しい地方公共団体では、税源移譲額による増収額より補助金・交付金削減額が多くなり、財政運営が困難となる。
第二に地域間不均等発展がさらに強まることである。今後、少子、高齢化が確実に進み、人口減少が避けられない状況と、グローバルな経済活動が強まるのだから、中、長期的にみて地域経済力格差はさらに拡大することになる。たとえば昨年暮れ、総務省は05年の人口動態調査(速報)を発表し、わが国が予想より2年早く人口減少社会になった事実を明らかにした。
しかし、人口減少はすべての地域で同水準の減少をしているわけではない。たとえば00年と05年の人口増減をブロックごとに比べると、北海道、東北、裏日本、四国、九州で減少する反面、首都圏と道府県では静岡、愛知、大阪が増加している。
この人口移動と1人あたり県民所得との関係をとると、たとえば全国で最も人口減少率の高い秋田県の場合、全国を100とすると83.9、人口は減少率マイナス3.8%、4万3,808人の減である。他方、東京都の場合137.7、人口の増加率4%、50万6,761人増というように、所得水準の低い県が減少して所得水準の高い都府県に人口移動のおきている事実が見てとれる( 注7)。
この傾向はこれから後、激しさを増す気配で、たとえば野村証券金融経済研究所の資料によると一、「日本の実質国内総生産(GDP)成長率は2015年度に向けて3%台前半が期待できるものの、政府の財政再建や国から地方へ税源を移す三位一体改革により、地方自治体の間で行政サービスの競争が起こる」、「その結果、東京圏や中京圏への人口集中が進み」、「雇用形態の流動化、若年層を中心に所得格差が進むことも人口移動の流れを加速」( 注8)するという。
このような状況下での三位一体改革第一幕による地方税財政改革は、貧困な地域の財政を政策的により困難におとしいれることで、都市と地方の不均等発展を加速させ、多くの地域社会を荒廃に導くアクセルとなろう。 |
まず、個人所得課税の税制はこれからの税制改革にとって核心となる課題である。総合課税と累進性を回復し、貧困層に課税しない水準まで課税最低限を引き上げて、税収確保機能と所得再配分機能を充実させなければならない。その場合、所得税と個人住民税は、制度上独立していても、一体のものとして設計する必要がある。3兆円の税源移譲が前提となるその具体化はこれからの課題として残った。
つぎに三位一体改革の特徴は、グローバリゼーションの一層の進展、地場産業の崩壊と人口減少社会を前提として、社会経済機能を都市部に集中させる財政政策であるように思える。
足元で住民の生活を保障し、わが国の将来の安全を視野に入れるならば、国土の荒廃を防ぐナショナルミニマムの再構築が必要になる。
そのためには三位一体改革をめぐる地方6団体と政府との協議で、義務教育費が問題となり、あるいは生活保護費の補助金外しが政府から提案されたと伝えられているが、社会保障と教育について国の役割を明確にし、財源保障することが必要である。あわせて地方交付税の財源再配分機能は維持されなければならない。こうした基礎的な財源保障を前提として住民が選択可能な課税自主権の拡充がある。 |
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(注4) |
現行制度における不均一課税と超過課税制度は薄井光明「要説地方税法のしくみと法」学陽書房51頁〜61頁参照 |
(注5) |
総務省試算による |
(注6) |
「04年地域経済要覧」東洋経済新報社より試算 |
(注7) |
人口統計は「05年の人口動態調査(速報)」総務省、一人当たり県民所得は「平成17年分地方税に関する参考係数資料」総務省白治税務局 |
(注8) |
共同通信2005.12.5 |
(文責・くまざわみちお) |
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