新人会記事

新人会記事
2006年度税制改正(案)に関する意見書
税経新人会全国協議会理事長平石共子
1. 定率減税の廃止に反対する

与党税制調査会の平成18年税制改正大綱では、定率減税について「18年度においては、経済状況の改善等を踏まえ、廃止する」としているが、定率減税は、橋本内閣が消費税の5%への税率引上げを行ったことなどにより日本経済が大変な不況に陥った景気対策として、小渕内閣において法人税率の34.5%から30%への引き下げ、所得税の最高税率の50%から37%への引き下げ、とともに恒久的減税として実施したものである。

大企業は過去最高の利益を上げている一方、サラリーマンの年収は平成9年から減少傾向となり、この5年間では減少の一途をたどっている。

このような経済状況のなかでは、充分な担税力を蓄えてきている法人や高額所得者に、その力に相応しい税負担を求めるべきであり、法人税率の引上げや所得税の最高税率の見直しを検討すべきである。

定率減税の廃止は、家計に多大の負担を強いることとなり、特に中低所得階層に対する課税強化となり、ひいては個人消費全体を冷え込ませ、景気を悪化させることになる。日本経済の全面的な回復のためにも定率減税は廃止すべきではない。

2. 個人住民税の所得割の10%比例税率化に反対する

税源移譲の実施として個人住民税の所得割の10%比例税率化が謳われている。所得税の税率の一部変更などにより税源移譲前後で税負担の変動が生じることのないよう措置がとられているが、低所得者への住民税の増税は、その増税額が国民健康保険料の負担額に影響するなど各種の負担の増加に結びつくものであり、国民のなかでの貧富の差の拡大、格差をさらに広げるものである。これらについての配慮がなされないまま比例税率化することに反対である。

また、税負担のあり方の基本的な考え方は、たとえ住民税であろうと比例税率化することは、住民税を応益負担化するものである。住民は地方公共団体から様々な受益を得てはいるが、その受益をいくら受けているか計算することはできず、応益負担は課税の根拠とはなっても、負担はあくまでの応能負担が近代税制として最も相応しいものである。

3. 同族会社への差別的な税制の導入に反対する

一定の株式を保有する同族会社の主宰者に支給する給与のうち給与所得控除に相当する部分として計算される金額の損金不算入制度を新たに設けるとしている。このような制度については、政府税制調査会などでも具体的には検討されたことはなく、同族会社にとっては寝耳に水の出来事であり、あまりにも唐突である。

同族会社の大多数の役員は資本等を提供しながら、かつ、労働者として現場で汗水たらして働いているのが現実である。この現実を直視することなく、このような制度を突然提起することは許されない。

この制度導入の趣旨に、恣意的な運営ができる状況の法人において、経営者個人の費用が会社の経費に算入される恐れが多分にあり、給与所得控除との二重控除になっているのを排除するという考えがあると聞いているが、そのような「事実」について具体的検証はされたことはない。乱脈経理がごく一部にあったとしても、それは大小の会社規模には関係なく、また、税務運営上是正されるべき問題である。大企業も中小同族会社も同じ法人税法の規定の適用を受けているのである。なお、個人事業から法人へ組織変更した事業者については、その会計処理・税務申告は個人事業のそれに比べ飛躍的に向上しているのが一般的であり、この点への配慮も必要である。

また、新会社法の実施に伴い容易に法人設立ができることが同制度導入の理由のひとつになっているようであるが、新会社法の意図するところは、中小企業の起業の促進を促すものであり、同制度はこの趣旨にも反するものである。

資金的裏付けが全くない支出に対する課税は中小企業の存続を危うくするものであり、「中小企業は、わが国の産業競争力の基盤を支えるものである」とする与党税制調査会の「平成18年税制改正大綱」における中小企業・ベンチャー支援の趣旨にも反するものである。

その他、法人がその役員に支給する「賞与」についても、非同族会社については利益を基礎として算定される一定の「賞与」について新たに損金算入を認める一方、同族会社等については「確定した時期において確定した額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与の額は、原則として損金の額に算入する」と解釈が困難な要件を付すなど差別的な取扱いがされている。同族会社であるか否かに関わらず会社法上、経営者の正当な判断にもとづいた企業活動の結果について税制上差別的取扱いを設けるべきでない。

4. 法人の事業概況書の法定化に反対する

与党税制大綱では、法人税の確定申告書等の添付書類に、法人の事業の概況に関する書類を加えるとしている。

当該書類は従来、任意の書類として税務当局が作成・配布していたものである。

納税の義務に関しては、憲法第30条で法律の定めるところにより納税の義務を負うとし、さらに第84条で租税法律主義を定めている。

納税義務は、国民がその主権者として法にもとづき、その課税計算の根拠と納付すべき税額を記載した申告書を提出することにより確定することが原則であり、事業の概況という企業の経営方針や経営実態に関する事項を強制的に税務当局に知らしめる必要はない。

また、事業概況書の法定化は納税者に対する事務負担を増加させるとともに、プライバシーの侵害にもつながるものである。

このような書類が法定化されれば、次々と法定書類が追加されていく危険性があり、事業概況書の法定化案はただちに中止すべきである。

▲上に戻る