2006年度税制「改正」案は我が国の税制案として歴史に汚点を残すことになるだろう。
第一に、「恒久的」減税であったはずの定率減税を、同じく「恒久的」減税であった法人税率・所得税の最高税率についての検討がなされないまま廃止する、という道理のなさである。定率減税という、ある意味で臨時的な措置をいつまでも残しておくべきだとは言わないが、所得税の税率区分の細分化、基礎控除額の引上げ等の抜本的改革によって中・低所得者に対する影響を吸収したうえで廃止を検討すべきである。法人税率についても、個人の所得税・住民税の負担率を考慮すれば、所得1,800万円を超える部分は地方税を含め税率50%にはすべきである。財界を中心とした国際競争力云々というご意見は、経済に対して「中立」であるべきという自らの主張にも反する。
第二に、「特定の同族会社の役員給与の一部損金不算入」なる理解しがたい税制の導入である。給与所得者の課税所得の計算上設けられている給与所得控除額がなぜ法人の課税所得を構成するのか、その理由が理解しがたい。
「合理的経理がされている大企業と、そうでない企業を同列視することはできない」(佐川財務省主税局税制第3課長)。合理的経理がされていない会社イコール特定の同族会社であり、「合理的経理がされていない」同族会社は主宰者の個人的経費が会社の損金に計上されているという事実があるのだろうか、あるいは損金となると思っているのだろうか。
法案を見ると「業務主宰役員に対して支給する給与の額のうち当該給与の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額は、損金の額に算入しない」と、損金不算入とする金額について政令に委任している。法人の課税所得の計算及び税負担額に多大な影響を与える金額の算定を政令に委任することは租税法律主義に反している。
第三に申告納税制度を根本から覆すような法人の事業概況書の法定化である。課税所得と税額の計算に必要な最低限度の書類等を国家に提出する。これが申告納税制度の基本であり、このことが国家と国民(中小企業も含む)との間に適度な緊張感をもたらし健全な社会発展にとって有用であると常々思っていたが間違っていたのだろうか。税務行政の都合だけを優先するならば、「法人税の確定申告書等の添付書類に、法人の総勘定元帳を加える」、いつの日にかこんな法律ができるかもしれない。
その他にも税務行政の都合を優先させるような法案が散見される。
第四に個人住民税の所得割の10%比例税率化が気にかかる。所得税の税率の一部変更などにより個人の税負担の総額に変動が生じることのないような措置はとられているが、住民税に応益負担という考え方を導入して良いものだろうか。住民は地方公共団体から受益を受けているが、国家からも受けている。そのうち所得税について20〜30%くらいの比例税率化が検討されなければよいが。
また、住民税額を基礎として計算される各種負担には国民健康保険料(税)などがある。国民健康保険料を例にとると、東京都区部では所得割額は加入者全員の住民税合計額の2.08倍、大阪市区部では同じく5.53倍と聞いている。地方都市では所得割額は低く、例えば静岡県沼津市では所得割額は(所得額−33万円)×6.65%である。そのうち大都市の人口が激減するのでは。国民健康保険料の滞納が急増しているなか、これについての手立てはどうなるのだろうか。
税制改正は毎年2月から3月にかけて国会で審議され、例年3月末には予算案とともに国会を通過している。この時期、税に関わる者は新聞に目を通すこともできないほど忙しい季節ではあるが、税制については意見を述べる責任があるかと思う。特に今回のような理不尽な税制「改正」案については声を大にして批判の声をあげる責務があるのではないだろうか。
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