時潮

給与所得控除の見直し(削減)提案に異議あり
神奈川会桑原龍太
(政府税調の提起)
政府税制調査会は6月21日「個人所得課税に関する論点整理」を発表し、個人所得税の抜本的見直し案を提示した。この中に盛られた提案の殆どが国民特に低所得者層に焦点をあてた増税案であり、税の公平性の点で各方面から批判されている。

特に冒頭から「給与所得控除の見直し」を課題としていることは、個人所得税納税者の85%を占めている給与所得者に対する大増税の提起として、注目される。
line
(報告書の論点の概要)
この報告では給与所得控除について、『従来「勤務費用の概算控除」のほか、被用者特有の事情に配慮した「他の所得との負担調整ための特別控除」という二つの要素を含むと整理されていた。』としながら、「近年雇用形態、就業構造に変化」が生じ、給与所得者のうち、「正規雇用者の割合が大幅に低下し」「パートなど非正規雇用者の割合が急上昇している」として「雇用関係の有無だけをもって給与所得者と個人事業者を比較しその強弱を一律に論ずることは難しくなりつつある」「給与所得者であることを理由として、所得計算に当たって特別の斟酌を行う理由は乏しくなってきている」と従来の解釈を変更し、その削減を提案している。
line
(矛盾している論理構成)
ちょっと考えれば誰でも気づくと思うが、この論理には矛盾がある。
第一に給与所得者の中に正規に雇用されていない不安定な雇用者が増加しているからといって、これを「給与所得控除」削減の理由とするのは無理である。「身分が不安定な雇用者は正規の雇用者より担税力は低い」と考えるほうが自然であり、その増加は給与所得控除拡大の根拠にはなるだろうが、これを削減する理由にはならない。

第二に「他の所得との負担調整のための特別控除」として従来から認められていた部分を「被用者特有の事情を画一的にとらえ、一律に控除を行う仕組み」として根拠も示さず否定し、給与所得控除を「職務遂行上の経費」だけに矮小化している点である。被用者には特有の事情のほかに共通の事情がある。「負担調整のための特別控除」はこの共通事情に根拠があり、そのために一律控除が認められてきたのである。これを「画一的な一律控除」という理由だけで、否定することは出来ない。

ちなみに同じ文書の事業所得の部分では、記帳がない場合は一定の「概算控除」を認める仕組みの導入が提案されている。事業所得の経費は業種ごとにかなりの格差があり、給与所得のような共通性は少ない。にもかかわらず一律な概算控除を提案している。論理の矛盾である。
line
(税理士として抗議を)
税理士の顧問先の多くは小規模な法人の経営者として給与所得者であり、その従業員の給与の源泉所得税徴収義務者でもある。今回の報告がそのまま実施されれば、中小事業者の負担増大は計り知れない。黙っていれば多くの中小企業が消費税と源泉所得税の納税で経営が成り立たなくなる。そうさせないためにも、主に低所得者を対象にする際限のない増税提案には、一つ一つ抗議していく必要がある。
文責くわはらりゅうた

▲上に戻る