1.はじめに
何処をどう読めば課税庁の言うような解釈が出来るのか、純粋に法解釈を求めたにもかかわらず、明確な条文解釈に欠ける残念な判決文であった。最高裁が5年もかけてこの判決に至った経緯、何故明確な法解釈を示さなかったのか知りたいところである。
そもそも、この訴訟を提起したのは、何故我々の法解釈が誤っているのかを知りたい(顧問先の納税者を説得できる解釈)という素朴な要求からだったのだから。 |
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2.判決内容の検討 |
(1)「免税」は「納税義務の免除」 |
判決内容は、地裁及び高裁と同様に終始一貫して、納税義務の有無を根拠として、納税義務者が納付税額を算定するための課税標準規定として「課されるべき消費税に相当する額」をとらえ、納税義務がないことをもって、免税事業者には譲渡先に転嫁する税即ち「課されるべき消費税に相当する額」がないと結論づけている。
このような司法の解釈は、善意に解釈すれば、消費税を租税債権債務関係という視点からのみとらえ、納税義務がなければ課税物件すら存在しないと考えるからであろう。しかし、そうであるならば、一般消費税である現行消資税法の構造を理解していないとしか言いようがない。
消費税法(以下「法」という)は、事業者が行う資産の譲渡等を通じて、法が予定する消費税額が商品等の価格の一部として適正に転嫁されることを予定し、最終消費者が購入品の対価の一部としてその消費税を負担することによって始めて成り立つ構造を持っている。
そうすると、すべての事業者が行う資産の譲渡等には消費税が含まれ、それが最終消費者に帰属することとなる。およそ間接税とされる税目においては、その税額は対価の額に含まれて最終消費者に転嫁されるのである。
現行法は、法4条で課税物件を限定し、その例外として法6条(非課税)を規定している。従って、法6条に列挙された非課税取引以外は全て課税取引であり、免税事業者が行う取引であっても同様に課税取引となり消費税が含まれることとなる。これは、国税通則法15条2項7号で消費税については課税資産の譲渡等をした時に納税義務が成立することを定めていることからも明らかである。 |
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(2)本件訴訟のポイント |
本件訴訟のポイントは、法9条が法28条の課税標準規定を借用する場合において、第一、納付税額を算定するための課税標準規定として「課されるべき消費税に相当する額」をとらえる。
第二、事業者の大小を弁別するための小規模事業者性の判定基準として「課されるべき消費税に相当する額」をとらえる、という2点であろう。
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第一の点について |
イ) |
地裁の判断 |
納税義務が免除された事業者は課税要件を充足していないから納税義務が発生せず、したがって、「課される消費税」はない。そして、国税通則法15条2項の規定は、納税義務の成立の時期を規定するものであり、納税義務の発生要件を規定するものではない、とした。
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ロ) |
高裁、最高裁の判断 |
納税義務がないことをもってその課税資産の譲渡等の対価の額には「課されるべき消費税に相当する額」がないものとし、法9条の規定を法4条の例外規定(つまり、課税物件の人的非課税規定)とした(最高裁も同様)。
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ハ) |
上告人の反論 |
法9条は納税義務を免除する規定そのものであって、課税物件を規定する法4条の例外規定とはなり得ない。つまり、納税義務が免除されるだけであって、事業者の行う課税資産の譲渡等の対価の額に消費税が含まれているかどうかとは関係がない。
仮に、課税庁等が主張するように、免税事業者には課税すべき消費税相当分がもともと存在せず(非課税)、いわば最終消費者と同じであるというならば、免税事業者が課税事業者を選択することができるとする規定(法9条4項)と矛盾することとなる。又、同様に、法の各規定(7条,30条,33条,34条,37条〜46条等々)において、「(第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)」とわざわざカッコ書で規定する必要はないこととなる。(課税庁等は、このカッコ書を以って、免税事業者を「法の適用のない事業者」としていると主張する。)
消費税法は、前述のとおり、すべての事業者が行なう資産の譲渡等には消費税が含まれており、それが適正に転嫁されているという仮定の論理に基づいて成り立っている。又、税制改革法の規定ぶり(特に17条3項)、法の規定ぶり、法施行当初の社会情勢等から、立法者は元々完全(百%)な転嫁は予定していないのである。現に、税制改革法(17条3項)の要請に基づいて、免税判定額及び簡易課税判定額を下げる改正が行われている。そうすると、「転嫁」ということをもって、上告人の主張を退けるのは、まとはずれな引用であることとなる。
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第二の点について |
イ) |
高裁の判断 |
法9条の趣旨及び目的にはほとんどふれることなく、租税法律主義の下では、条文の文言にない仮定の計算をするような解釈は採用できないとして簡単に退けている。
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ロ) |
最高裁の判断 |
何も答えていない。
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ハ) |
上告人の反論 |
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この点についてだけ、何故ほとんど触れないのであろう? 上告人の主張を退ける論理が構築できなかったのか。又、もし、この点について、答えていくと、課税庁等の自らの論理矛盾を露呈してしまうからではないか?
法9条の趣旨及び目的からすれば、第二の視点にたつ解釈こそが正当であることは、前述したとおりである。 |
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(3)法9条で借用される法28条の意味 |
そもそも法28条は納付税額を算定するための課税標準規定なのだから、納税義務が免除されている免税事業者に適用することを予定していないのは当然のことだが、あえて借用しているのは、単に事業規模の大小を判定するだけの目的であり、納付税額を算出するためではない。故に、法9条は当該基準期間にその事業者が課税事業者であったか免税事業者であったかを別段規定していないのである。当然課税事業者・免税事業者共通の判定基準でなくてはならないということになる。
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(4)判決の具体的な問題点 |
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売上高が毎年同一(例えば3千1万円)である場合、(同一の担税力なのに)年によって課税となったり免税となったりする、いわゆるダッジロール現象が生じる。
これは、法9条の趣旨、目的に反する。 |
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免税事業者の判定をする場合、その基準期間が課税か免税かを判定し、そのために又、その基準期間が課税か免税かを判定しなくてはならず、どんどん遡らなければならないこととなる。
これは、法9条の趣旨、目的に反する。 |
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課税事業者については本体価格とは別個に消費税を収受し、免税事業者については本体価格のみを収受していることとなる。
これは、今日通説となっている、消費税は「価格の一部である」という見解に逆行することとなる。 |
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課税事業者と免税事業者とを別途判定することとなる。又、同一の担税力(売上高)を基準としてない。
これは、法9条の趣旨、目的に反する。 |