時潮
マネーゲーム
税経新人会全国協議会組織部長清水 裕貴
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今年の確定申告期に耳に入ってくるニュースのナンバーワンは、インターネット関連会社ライブドア(堀江貴文社長)によるラジオ局ニッポン放送の株式取得問題ではないだろうか。

そもそも発端は、ニッポン放送株が市場に出そうだとの事前情報を証券会社から入手したライブドアが、2月8日早朝東京証券取引所で9時からの通常取引に先立ち「時間外取引」で、ニッポン放送株を35%取得したことである。その日の夕方記者会見した堀江氏は、この事実を明らかにし、ニッポン放送が筆頭株主になっているフジテレビを中核とするフジサンケイグループと資本、業務両面で提携してネットとテレビ、ラジオを融合したビジネスをめざすと表明した。

他方、ニッポン放送を子会社化するため、同社株を公開買付け(TOB)中のフジテレビ(日枝久会長)は寝耳に水だったらしく、この話に猛反発した。

ここで言う「時間外取引」とは取引所における営業時間外に証券会社などの提示価格で行われる取引のことであり、ライブドアが使った「時間外取引」は、東証のネットワークシステムを使っていることから「市場内取引」とされている。

「市場外取引」なら、支配権取得などのために上場企業の1/3超を買付ける場合、買付ける株数や価格(フジではニッポン放送1株5,950円を買付け価格とした)などの条件を事前に公表する「株式公開買付け(TOB)」を義務づけている(証取法27条の2)。ライブドアは公開買付けを義務づけられない「市場内取引」で、闇討ちのように大量の株式を取得したわけでその手法は決してほめられたものではない。
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ライブドアとフジによる争奪戦のさなかにあるニッポン放送は、2月23日フジを割当先とする4,720万株の新株予約権を発行すると発表した。新株予約権とは、あらかじめ定められた価格で、あらかじめ定められた期間内に、会社から一定数の株式を取得できる権利をいい、これが行使されると会社は新株を発行するか、または保有する自己株式を移転する義務を負う(商280条ノ19)。

すべてが新株になれば、ライブドアのニッポン放送株の保有比率を大幅に引き下げることができる。しかし、現経営陣の支配の維持強化だけを目的とする新株発行は著しく不公正だ。結局ライブドアは、新株予約権の発行を差し止めるための仮処分を東京地裁に申請し、争いの舞台が司法の場に移り、長期化はさけられそうにない。

ライブドアは昨年の球界再編騒動の中で「近鉄球団買収」「新球団で参入」に名乗りをあげ、衆目を集めるようになった。税理士法人を六本木に設立したり、弥生会計を買収したり、金融業務も営むようだがやっていることは若い経営者によるマネーゲームの観が強い。次々に新しい事業や企業を自社の傘下に入れても、その先にどんな展望があるのか、伝わってこないからである。

今回の出来事でも注目しておかなければならないのは、リーマンブラザーズという米国ファンドがライブドアの資金調達先になっていることである。表にこそ出てこないが、本当にマネーゲームの主役になっているのは、実はこの周辺なのかもしれない。かって破綻して8兆円の公的資金をつぎ込んだ旧長銀を10億円で買い取った米国ファンドリップルウッドは、新生銀行株を上場し、ぬれ手にアワの上場益を得た。

しかし、リップルウッドはオランダ籍の投資組合を設立し旧長銀の買収、増資を行っていたので、日本オランダ租税条約により課税権は、源泉地国(日本)ではなく居住地国(オランダ)にあった。公的資金という税金が元手となって獲得した利益に日本で課税できなかったこの時の教訓は忘れてはなるまい。
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ライブドアの背後にいる米国ファンドは、合併や買収のアドバイスや資金の提供をすることにより自己の利益を確保することしか念頭にない。乱高下するフジやライブドアの株価は金融詐術にたけた者には願ってもない機会かもしれないが、一般投資家には不利益をもたらす。

株式市場におけるマネーゲームは規制してこそ、国民は安心して株式投資ができるし、これをしないまでも安心して見ていることができる。貯蓄から投資への流れで、個人投資家を株式市場に呼び込もうと政府も金融機関もやっきになっている。そして株式市場に興味を持ち始める国民も多いと思われる。資本主義である以上、株式市場との縁はきれないのであるから、マネーゲームに踊らされない公平な株式市場と租税制度を構築してほしい。
文責しみずひろたか

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