時潮

NHKへの政治介入が意味するもの
税経新人会全国協議会事務局長平石 共子
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NHKの受信料支払拒否・保留件数が1月末で39万7千件に及んだという。これがどれくらいすごいかというと、昨年11月末までに11万3千件だった件数が3倍以上になっている。視聴者が実力行使で抗議をした。その無言の行動がNHKの内に孕んでいた問題をあぶり出したといえる。昨年7月に紅白歌合戦を手がけた元チーフプロデューサーの制作費着服という不祥事に端を発して、次々と不正経理や空出張が発覚した。最初の不祥事後に立ち上げた「コンプライアンス(法令順守)推進室」で見つかったという。

さらに、9月9日衆議院総務委員会に海老沢会長と幹部が参考人として出席したにもかかわらず生中継しなかったことへの批判が11月末までの支払拒否につながった。この時点では、組織のトップが責任をとらない。一部の不届き者がやったことと発言し辞任しようとしないことへの怒りだった。国会中継にしても襟を正す姿勢を示すのであれば、当然に放映して国民の白日の下に自らさらすというのが筋というものだろう。

そもそもNHKとは、特殊法人「日本放送協会」が正式名で、放送法に基づいて設立された法人である。放送法7条でその目的は、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、よい放送番組による国内放送を行い、又は当該放送番組を委託して放送させる・・・後略」とある。そして、9条に「業務を行なうにあたって営利を目的としてはならない」とある。だから、受信料でまかなうしくみになっている。

受信料の定義は、日本放送協会の放送事業運営をまかなうための「特殊な公的負担金」という位置付けという。NHKの番組を見る・見ないにかかわらず、受信設備、つまりテレビをもっていたら受信契約を結び、受信料を支払わなければならない。

しかし、今年に入って1月12日の朝日新聞の報道で、事は急変した。放送番組が政治介入によって改変されたという最悪の事態が明らかになった。海老沢会長はその後辞任を表明するが、この問題が最後通告となったに違いない。一切辞任のあいさつでは触れず、朝日新聞とNHKとの対立構造をつくって事実をごまかそうとする作戦のようだ。NHKは急増する受信料不払いをいまだに「一連の不祥事」と理由付けしているが、NHKへの不信はこの問題でさらに根深いものとなっているというのが実態だろう。
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2001年1月30日に放送された「従軍慰安婦」問題の責任を追及する女性国際戦犯法廷を取り上げた「問われる戦時性暴力」という番組が、自民党の安倍晋三、中川昭一両氏の圧力によって改変されたという。NHKは朝日新聞に即座に抗議し謝罪と訂正記事を求め、自民党は朝日新聞の報道を虚偽報道と決め付けているようだ。しかし、安倍氏は「偏っている報道と知り、国会議員として当然言うべき意見を言った」といい、中川氏も「偏向した内容を公共放送のNHKが流すのはおかしい。だめだ」と発言しているとのことだ。もっとも、これは政治介入ではないと言っているらしい。

これに加えて内部告発はもっと生々しい。昨年12月に「コンプライアンス推進室」に内部通報したにもかかわらず、関係者へのヒヤリングもなく放置されたことから、マスコミに告発したもの。
中川氏、安倍氏などから放送の中止を求められたこと。番組内容を説明し理解を求めたが了解が得られず、番組内容を変更することで了解を得たこと。番組の改変の具体的な内容も明らかになった。

これを政治介入といわず何というのだろうか。
言論・報道・表現の自由を保障し、検閲を禁止した憲法21条に違反することは明らかである。

また、放送法3条には「何人からも干渉され、または規律されることがない」と放送の自由を明確に規定しているという。これは戦前、NHKが政府の支配のもとで国民を無謀な戦争に駆り立てたことへの反省にもとづいているということだ。

マスコミ識者によれば、NHKへの政府・自民党からの介入はいまに始まったことではないという。過去にもあったし、現在でもあるし、これからもある。問題は、放送機関が政治からの介入とちゃんと戦うことだ。
戦前よりも大きいNHKが、翼賛体制のリーダーとなる危険性を指摘する声もある。
私たちが今しなければならないことは、この問題をうやむやにしないで大いに論議することである。
文責ひらいしきょうこ

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