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時潮

小泉「税制改革」と税理士の下請化
税経新人会全国協議会副理事長清家 裕
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1. 庶民・中小企業増税の小泉「税制改革」
小泉内閣が誕生して4年目、すでに断行した主な庶民・中小企業増税を列挙すれば次のようになる。酒税やたばこ税の増税、配偶者特別控除(上乗せ部分)や老年者控除の廃止、公的年金等控除の縮小による所得税の増税、事業者免税点の引き下げや簡易課税適用範囲の引き下げによる消費税の増税が決定され、すでに実施されているものもある。そして、今後予定されているものとして、定率減税の縮小・廃止、給与所得控除や退職所得控除の縮小、人的控除の見直しなどによる所得税の増税と消費税率二桁への増税である。消費税率引き上げについては、小泉首相は「任期中は上げない」と言っているが、06年9月の任期までに税率引き上げを決定する動きが強まってきた。このように小泉「税制改革」は、庶民・中小企業増税が目白押しである。

一方、大企業や金持ちには、欠損金繰越控除期間の延長・連結付加税の廃止による法人税減税、最高税率引き下げによる相続税・贈与税減税をおこなった。そして、今後法人税率のさらなる引き下げによる法人税減税が予定されている。

強き(大企業・金持ち)を助け、弱き(庶民・中小企業)をくじく「税制改革」が、弱肉強食の小泉「構造改革」の一環として進められている。

2. 庶民・中小企業増税で激増する納税者
庶民・中小企業を増税すればするほど、納税者が増大する。消費税免税点引き下げで新たな課税事業者が個人で151万人、法人で53万人も見込まれ、また老年者控除の廃止などで年金受給者の確定申告も増大し、あわせて2006年には確定申告者が300万人増えると、「納税通信」10月25日号は報じている。そして、「9月に行われた全国国税局長会議で大武健一郎国税庁長官は、「平成17年分の確定申告者の増加により、抜本的に現行の方法を見直す必要がある」と訓示。」という記事が目を引いた。庶民・中小企業増税で増大する納税者対策が、国税庁において深刻化しているようである。

3. 税理士の下請化を加速する国税庁
国税庁において深刻化している納税者対策に、税理士を活用しようとする動きが顕著になってきた。

ある納税者が消費税課税事業者届を出したところ、税務署から指導を担当する税理士が決まり、近日中に担当する税理士より連絡するとの「記帳指導のお知らせ」文書が届き、税務署の守秘義務違反が大問題となっている。この税理士斡旋事件は国会でも取り上げられ、国税庁次長が個人情報漏えいの事実関係を認め、謝罪する事態にもなった。税理士活用でとんだ勇み足をするほど、激増する納税者対策は深刻な事態である。

また、10月5日付の「税理士新聞」に「国税庁税理士への外注費アップ17年度予算要求盛り込む」の見出しが踊った。「国税庁はこのほど、平成17年度の機構・予算要求を発表。そのなかで、税理士が税務署などに出向し、税務相談に応じる「アウトソーシング経費」を拡大したことが分かった。」と報じた。激増する納税者対策を税理士に外注して乗り切ろうとしている。

4. 下請にふさわしい税理士づくり
外注する税理士を納税者の代理人から課税庁の下請人に転換するため、新たな施策が取り組まれている。その一つが「改正」された書面添付制度である。国税庁は書面添付割合を引上げることを重要課題にし、税理士会などを通じて添付率引上げ攻勢をかけている。そして、添付割合が2003年度4.4%(法人税、前年度4%)だったことを公表した。「改正」書面添付制度が税理士の下請化をいかに助長するかは、「税経新報」480号の拙稿「税理士は税務署員にあらず」を参照して欲しい。

もう一つが税理士「実態確認」調査である。この調査は2002年7月に国税庁総務課名で各国税局長に出された文書「税理士事務提要」に基づきおこなわれている。全国で2003年度は税理士に対し1721件の「実態確認」調査等がおこなわれている。この調査は税理士法55条に基づくものか、財務省設置法19条に基づくものか、それとも行政指導なのか、現時点では諸説紛々で得体の知れない「実態確認」調査になっている。この調査は税理士が「税理士は課税庁の監督下にあるんだ、課税庁と同じスタンスなんだ」と意識づける効果をねらったものであろう。この「実態確認」調査の詳細、問題点は、「税経新報」509・510号の伊藤清会員論文を参照していただきたい。

私たち税理士は税理士法第1条の「税理士の使命」から考えて、国税庁の下請に身を置くことなく、納税者の代理人の立場を堅持しなければならない。そのためにも、庶民・中小企業増税を進める小泉「税制改革」をストップさせ、応能負担原則の税制に立ち戻らなければならないのではないだろうか。
文責せいけひろし

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