論文

税理士業務の「無償独占」について考える
― 税理士に与えられた特典ではない ―
千葉会伊藤

税理士業務の「公共性」と「無償独占」の恩典と

税理士会は、国税庁の要請を受けて、毎年所得税確定申告期に会員税理士に小規模納税者に対する税務援助を強制的に行なわせていますが、これについて、会員の中に、「われわれ税理士は行政の下請機関なのか」という不満や批判の声がありました。

この会内からの不満や批判に対して税理士会幹部の口から説かれた言葉は、「税理士業務の公共性」と「税理士業務の無償独占」ということでした。つまり、税理士業務は、自主申告納税制度のもとにおける税金の申告納付という国家財政に直接役立つ重要な「公共性」をもった仕事であり、また税理士以外の者は無償でもできないという強い「無償独占権」が国家によって与えられ、この恩典によって税理士の職域が守られているのである、その意味で税理士は税務援助に奉仕すべき義務がある、ということでした。

私たちは、この税理士会幹部の「無償独占」についての発言は、冒頭の国税庁長官のあいさつと非常に似通ったものがあることに気づきます。

しかし、この国家財政に役立つ仕事だから無条件に「公共性」があるとする税理士会幹部の発言には、私としては非常に疑義のあるところですが、それはさておき、いまここで問題にしたいのは、この業務の「無償独占権」です。繰返しになりますが、これは、既に述べたように、なにも税理士を優遇する特典として与えられた権利ではありません。国家がこの税理士業務を監督し規制するという国家の必要から、税理士以外の者がこの業務を行うことを禁じた結果、生じたものに過ぎないのです。

税理士は納税者の代理人として申告等や主張等をすることが主業務

ところで今日、税理士業務は、税理士法2条1項で次の3つに定められています。

それは、1. 税務代理、2. 税務書類の作成、3. 税務相談ですが、そのうち税理士業務の主要な部分は一号の税務代理で、この税務代理は同法で次のように定義されています。

「税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。以下同じ。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法(昭和37年法律第160号)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法(昭和28年法律第6号)第2章の規定に係る申告、申請及び不服申立てを除くものとする。以下「申告等」という。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。」

これを簡単にいえば、税務官公署に対し、納税者の代理人として申告や不服申立てを行ない、税務調査や処分に対して、納税者の代理人として主張や陳述を行なう、これが税務代理であり、税理士の実際の仕事はこの税務代理に尽きるといってもいい過ぎではありません。

この税理士業務が、税理士以外の者には無償でもできない「無償独占」ということになります。

この代理権は課税当局によって無視され故意に侵害されている

このように自分の信頼する者がいても、その者が税理士でなければ税務代理を頼むことができないという国民の自由に対する制約が「公共の福祉」のためであれば、国家は、その「公共の福祉」のために、税務代理をする税理士のその代理権は、これを最大限尊重すべき義務を負っているといわなければなりません。

ところが、現実には、税務行政においてこの税理士の代理権はしばしば軽視ないし無視されているのです。

その第一に挙げられるのは、通常の任意調査でありながら、納税者の意に反する無予告の抜き打ち調査が、なかば強制的に行なわれていることです。

この事前通知のない調査は、憲法31条の適正手続や13条の幸福追求の権利規定に反する行為といわなければなりませんが、さらにこの場合、税務代理の委任状を提出している税理士がいるにもかかわらず、課税当局はそんなことは全く考慮することなく、直接納税者宅に臨場し、代理人である税理士抜きで調査を行ないます。そのため税理士は、その調査の現場において納税者を代理して調査官に主張陳述しなければならい義務を果たすことができません。このことは、税理士法に定められた税理士の職務である代理行為が、課税当局によって故意に妨害されていることになります。

そのように代理権を侵害された本坊美通税理士が現在提起している国家賠償請求事件なども、その典型例というべきでしょう。無予告調査を受けた会社の社長が、代理人本坊税理士の臨場できる日に改めて調査を受けたいと頼みこんだ際、調査官いわく、「税理士は関係ありません。社長のあなたさえ承知すれば調査はいくらでもやれますから」と。

また所得税確定申告後の事後調査で是正事項が発見された場合、代理人である税理士に連絡することなく直接納税者本人を署に呼び出し、来署した本人から用意した修正申告書に署名押印を求め、その場で提出させる例も、例年各地で恒常的に見受けられるところです。

こうした税理士代理権の無視は、代理人である税理士という専門家を介在させずに直接素人の納税者を相手にした方が、はるかに手っ取り早く事案の処理が終わるということから行なわれているものです。つまり課税当局は、いかに早くいかに多くの処理件数をあげるかという行政効率をすべてに優先させているのです。

そのほか、更正処分の通知書や異議申立て・審査請求に対する決定書・裁決書等、その他税務代理に関係の書類のすべてが、代理人には送達されず、納税者本人に送達されていることも、代理権の無視ということができます。そのため代理人税理士による適切な処理が遅延するなどの不都合が生じた事例も聞かれます。

課税当局は、本人が承知さえすれば、代理権の侵害にはならないと考えているものと思われますが、税法に疎い納税者に代わって国家が税務の専門家として税理士にのみに認めた「無償独占」という税務代理の意義を考えれば、このような税理士の代理権の無視ないし軽視は、税理士法を全くないがしろにし、専門家を代理人とした国民納税者の権利・利益を大きく侵害していることになります。

代理権の無視・軽視や侵害とは妥協することなくたたかうこと

税理士業務の「無償独占」という言葉は、税理士を税務行政の補助的機関としてその協力を求めるときに使われる常套句ですが、この「無償独占」はこのように行政の便宜のために使われるべきではありません。

そもそも税理士業務の「公共性」は、それが国家財政に寄与するところにあるのではなく、国民納税者の憲法に保障された権利を守るために、国家権力(税務官公署の徴税権力)と対峙するところに求められなければならないのです。

国民の自由を制約してまで与えられた「無償独占」の代理権は、税理士を税務行政の下請機関とするためではなく、まさに国民納税者の権利・利益をまもるために使われてこそ、はじめてその「公共性」を主張できるのです。

私たち税理士は、税務行政の下請け機関となることを拒否し、課税当局による代理権の無視・軽視や侵害とは妥協することなくたたかい、国民納税者の代理人として、「無償独占」の代理権を真の公共の福祉のために生かしていかなければならないと考えます。

(追記)なお、上記本坊美通税理士の事件について法廷に鑑定所見書を提出された北野弘久日本大学名誉教授の論考「税理士の代理権への侵害と国家賠償責任」(本誌492号及び514号)を、税理士の代理権の本来のあるべき姿を学ぶ上から、是非皆さんにお読みいただきたいと思います。

文責いとう・きよし

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