論文

アメリカの要求に応え続けた
大企業に対する商法・会社法の改正
神戸会国岡
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(1)企業の資本構成及び資本取引
企業の情報開示を改善し、企業の資本構成に関する次の現行規制の多くは廃止すること。

1
新規発行株式の最低発行価格(5万円)および株式分割時の一株当たりの基準価格に関する規制、

2
株式資本比率による優先株、ストック・ワラントおよびストック・オプションの発行限度額、

3
ワラント及びストック・オプションの付与対象者の範囲に関する制限、

4
株式償還、及び優先株、劣後債、利益配当債、または主要国際証券市場では一般的に受け入れられているその他のエクィティ、債務証券の条件に関する制限、

5
資本の現物出資に関する裁判所による価格査定手続き、

6
企業間における双方のクロス・ボーダー  による株式持分交換を認める、

7
企業買収後、少数株主の保有する株式を強制的に提供させることを認め、企業買収が100%株式保有できる
ことを挙げています。これらの項目は、その後の日本の商法・会社法改正で実現されていくのです。
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(2)企業統治

1
企業の役員会の独立性、義務及び説明責任を拡大する、

2
独立取締役によって構成される委員会には、報酬、管理職及び取締役の任命、又は会計監査のような企業統治に関する重要な項目について意思決定する権限を与えること(いわゆる委員会等設置会社の選択)、

3
株式公開企業の株主総会が、多数の株主の参加にとって明らかに不都合な日に開催することがないような措置を講じる、

4
企業が、その定款に取締役の条件としてある特定の国籍、あるいはその企業の社員であることに限定するとの条項を盛り込むことを禁止する、

5
株主総会における電子的手段、ファックス、電話による投票を認め、委任状手続きを改善する
等々の項目を挙げています。改正が実現した項目も未実現の項目もあります。
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(3)株主代表訴訟
「株主に対する経営者の説明責任を確保するため、株主代表訴訟の原則は維持されるべきこと、例えば、ある状況で取締役に生じた債務に対し企業が費用の前払いや補償をする権限について明確に規定すること、訴訟を起こした株主が、株式取得の時点で、訴訟の原因について知らなかったこと、あるいは知り得る理由がなかったことを要件とすること等が含まれる。同時に、代表訴訟においては、原告、被告双方が企業の書類に適切にアクセスできることを確保する。」と提起しており、日本の会社法規の不十分さを指摘しています。

新会社法では、株主代表訴訟ができない場合が新たに設定されます。その一つとして、代表訴訟において損害賠償で回復できる実際額と、それに要した費用との比較により相対的に過大である費用が生じる場合にはできないことがうたわれており、議論のあるところです。
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(4)企業取引の促進
「企業統治と取引の双方を過度に制限する規則を設定するのではなく、市場主導による取引を可能にし、支持するよう商法を改正する。」として、次のような措置を提起しています。

1
独立取締役からなる監査委員会を採用せず、「監査役」制度の維持を選択する株式公開企業に対しては、社外監査役制度の利用を義務付ける、

2
100% 子会社及び株式非公開の合弁会社を含む株式非公開企業に対しては、社外監査役制度の利用を義務付けるのではなく、奨励する、

3
商法自体をさらに変えることなく、国際的に認められている会計基準に則した規則の確立を認めるように商法に柔軟性を持たせる、

4
企業や資産に適用される高額な登録及び設立手数料を引き下げ、それらの手続きを簡素化する、

5
商法に関連する案件に対する訴訟不要意見書制度を用いるなど、規制の透明性を高めるための措置を導入する。
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(5)商法改正プロセスに対する一般の参加
「日本政府は、関心を持つ外国の法律専門家や企業の代表が、商法改正を検討中の政府諮問委員会による提言のとりまとめに、意味のある、時宜にかなった形で参加できる機会を提供すべきである」、また、「商法改正に関する提言を準備中の審議会が、その中間報告や提言に対してパブリック・コメントを募るよう義務付けるべきである」とも提起しています。

以上の各項目をみれば、ほとんどの項目が、今までの商法改正と現在審議中の新会社法制に反映されていることがわかります。

5会社法に関連して新たな課題が浮上・・・これからが正念場の日税連

新会社法制では、会計参与制度が盛り込まれたことで収束をはかろうとする日税連ですが、これからが正念場です。会計参与制度をめぐって、


1
監査業務と税務代理業務が完全に異質な業務であり、相互乗り入れがないことが明確になったこと、

2
公認会計士側からの要望であった会計監査人の設置強制範囲の引き下げについて、会計士側は、資本金3億円以上又は負債総額60億円以上を提起し、日税連側から積極的な反対意見がなかったことと会社法部会の審議において事務当局が「近い将来、企業結合法制一般の議論が会社法の中で行われるので、その際の議論に委ねる」

と答弁したことで、今回見送りになった経緯があります。

したがって、税理士法第3条(税理士の資格)をはじめとする税理士法改正問題、会計監査人の設置強制範囲について早急に税理士会会員の意見を聴取し、日税連の運動方針を決めなければならない新たな課題として浮上しました。

<参考>以下は、納税月報04年10月号に掲載された意見です。
「『会計参与制度』は真に税理士のための制度か」
(武田隆二大阪学院大学教授・現TKC全国会会長)

1. 会計参与制度は、計算書類の信頼性を高めるための制度として構築されているが、この制度は、公認会計士法改正の流れの中で生まれた制度であることから、税理士の社会的地位を評価してできた制度だとはいえない。
日本公認会計士協会の人事戦略として、今後増加する公認会計士5万人対策(企業内会計士として会計参与に吸収する)という公算が当初から背景にあった。
2. 計算書類の信頼性を高めるために、税理士が会計参与として会社の内部機関に就任する必然性はなく、逆に内部機関の一員となるため、税理士は外部者としての地位の客観性を失うことになる。このことは、日税連が推進している外部者の立場から作成する「書面添付制度」と矛盾する制度ということになるのではないか。
文責くにおか・きよし

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