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時潮

歪んだ徴税権力に「NO」
雑誌記者の取材を通して見た国税庁の姿
大阪会西田富一
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5月19日、OTC(納税者の権利検証をつくる大阪の会)の総会で『日経系ビジネス』の記者の講演があった。筆者自身もこの記者から取材を受けた一人であるが、この講演を聞いて、今日の国税庁の姿が鮮明になり、税務行政はあいかわらず"上が庶民から税金を取り立てる"という後進国性が改めて浮きぼりになった、と感じた。 いわば財界向けの経済雑誌がなぜ「税金」記事をとりあげたのか、東京海上火災が国税局から40億円の追徴課税をされ、これを不服として国税不服審判所に審査請求をした。

またNTTドコモはNTTパーソナルの買収をめぐって111億円追徴課税され、行政訴訟を起こした。これらは保守的な体質の大企業である。にもかかわらず、税金について国と対決姿勢をとるのは、きわめて異例といえる。「追徴現場に何が起こったのか」との問題意識がその動機であった。消費税の増税が見えているし、配偶者特別控除の廃止や公的年金への課税強化など国民に負担増を打ち出している。税制と徴税の両方を取材してきたが、今回は徴税にかかわる問題のほうが大きいと判断し、今回の企画をした、と記者は熱っぽく語った。 以下、講演のポイントである。
世間とかけ離れた「3つの異常」
1、目標とその達成手段が不明確

通常、組織が存続するには社会で認められることが不可欠である。顧客は誰なのか、どのような満足をもたらすのかを明確にする必要があるとともに、従業員に幸福をもたらすということなしに存続できない。そうしないと組織は腐敗していく可能性が高い。ところが国税庁は「何のために存在し、その目的を達成するための手段は何か」を内外に明らかにしない。税務署の役割に対する規定がないのである。つまり、税金を取ることだけに腐心し、納税者は税金を取る対象としか見ていないと言わざるを得ない。金を取るために税務署別に実績を出しランク付けまでしている。

「滞納整理にあたり、差押さえなど集中的にすることがあるのか。その際に納税者の事情を考慮するのか?」これに対しての国税庁の解答は「そのような計画やそのノルマなどはない。納税者の実情を把握し法に基づいて適正に対処しているので問題はない」という"公式回答"に終始した。国税庁・税務署はサービス機関なのか否か、国民に対して税金というもののあり様を示し、国民が納得して納税するにはどうすればいいのかなどの検討や言及の形跡は見受けられなかった。

2、現場は「ノルマ主義」、人事評価基準は不明確
国税庁の場合、職員個人への人事評価の基準が極めて不明確である。取材した企業ではありえないこと。税務調査で会社の負担を少なくするので、重加算税扱いにしてほしい、と税務署の話を記事に書いた。国税庁に「人事評価にあたって、税額や件数増差所得を競わせるようなことがあるのか?」と質問してもその回答は「増差税額などをもって職員を評価することはなく、適性など総合的に把握し、公正な人事に勤めている。」というものであった。

要するに「総合的」という曖昧なものである。評価の基準が曖昧だと、現場は必ず混乱する。このような状況は世間からかけ離れている。

3、組織が内向き、問題が表面化しない
税務署には二つの労組がある。多数派の組合に聞くと、ノルマもなければ、強引な徴税もない、という答えが返ってきた。少数組合に聞くと、前年の徴税実績を示され、発奮を求められる。メデアに身をおくものとして「公正さ」には気を使う。国税庁の回答が公式見解の範囲にとどまって、余りにも形式的だったこともあって、かなり国税庁に辛口の編集内容になった。国税庁は組織としてかなり"病んでいる"と感じた。日経ビジネス版「納税者の権利憲章」をまとめた。

国税庁は「OECD30ヵ国中、納税者の権利憲章があるのは3割程度で、法制化となるとさらに限定される。法改正や権利憲章は必要ないと考える。」この記事に対して国税庁から何の反応もない。「無視するに限る」と考えたのでしょうか。
(日経ビジネス2004年3月22日号参照)
文責にしだとみかず
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