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時潮

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税理士制度、そして税理士会の自治権
制度部長 井上 礎幸
税理士制度を振り返ると、中途半端な制度ではないかという感想を時々持つことがある。今一度、税理士法に立ち戻り税理士という職業、専門家としての職業を考えてみたい。

自分を含めて税理士資格を目指す段階で、おそらくほぼ全ての税理士が財務省(旧大蔵省)の監督下に置かれていることを前提(納得)として資格を目指したことはないと思う。それは、資格取得の過程において税理士法そのものに触れる機会が少なく、その事実を知らずに税理士になるからである。それは他の士業においても同様であろうが、業法を全く学ばずに資格者となれる税理士の試験制度の欠陥という指摘があることは知っていてもよい。

弁護士法と比較しさらに税理士制度を考えてみたい。弁護士になるためには司法試験というものがある。弁護士となるための制度を確認してみると、弁護士法第四条により、「司法修習生の修習を終えた者は、弁護士となる資格を有する。」と規定されている。弁護士法第一条から第三条に「司法修習生」という言葉の定義はなく、調べていくと、裁判所法第六十六条「司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。」とある。司法試験は難関資格試験として有名であるが、弁護士のほかに裁判官及び検察官も同じ試験制度の合格者が司法修習生を経てそれぞれの道へと進む。将来、裁判所において相対することもあり得るわけだが、修習生時代を同じくし、同じ釜の飯を食うということで同期意識は強いと聞く。

税理士試験も最終的に何年に合格したという、話は聞くが、それを強く意識することはあまりない。以前、新人会の受験研究会を通じた集まりを続けているという話を聞いたことがあるが、現在では同じ大学や専門学校で学んだという話しを聞くことがある。しかし、税理士試験は科目合格制度があるため、同じ学校に通ったとしても、科目やクラスの選択、科目合格する順番などで完全な同期というのはほぼあり得ないが、結果として多様性が生まれるというメリットはある。

税理士と税務調査官の関係を、司法制度における弁護士と検察官という関係に近づけるため、税務調査官を税理士試験合格者に限るというのはどうであろうか。納税者の権利擁護と適正な税収確保が可能となりそうであるが、さすがに実現へのハードルは高いであろう。
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続いて、自治権について考えてみたい。税理士法第一条に「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定されている。ここにおける「独立した公正な立場」とは納税者からも独立していると解すべきだ、という意見があるが納税者の代理人が第三者的な位置づけにあるとは解することはできない。これは歴史的にも、専門的知識を有しない納税者の代理人として税理士制度が作られた経緯があり、疑問の余地はない。

税理士法第四十五条及び四十六条に財務大臣による懲戒が規定されている。これは、税理士に対する懲戒である。また、第四十九条の九により税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を財務大臣に報告しなければならない。また、第四十九条の十七により財務大臣は、税理士会又は日本税理士会連合会の総会の決議が法令又はその税理士会若しくは日本税理士会連合会の会則に違反し、その他公益を害するときは、その決議を取り消すべきことを命ずることができる。これらがいわゆる、財務大臣による監督権であり、税理士会の自治権が不完全である理由である。特に総会決議取消権は問題ではないか。総会の決議が法令もしくは会則に違反したときは、自ら決議を無効とするか、新たに適正な決議を行うべきである。

一方弁護士法は、日本弁護士連合会に完全な自治を与えている。例えば、総会の決議の取消権が弁護士法第四十条にあるが、そこには「弁護士会の総会の決議が公益を害するときその他法令又はその弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反するときは、日本弁護士連合会は、その決議を取り消すことができる」とあり、日弁連自ら自浄能力を発揮することが求められているのだ。日弁連のホームページには、「弁護士が、その使命である人権擁護と社会正義を実現するためには、いかなる権力にも屈することなく、自由独立でなければなりません。」とある。戦前は司法大臣(現在の法務大臣に相当)が弁護士の監督権を持っていたが、戦後の民主的改革の過程で勝ち取ったもので、偶然得られたものではない。

課税権及び徴収権というものは、警察権とともに国家権力の最たるものである。課税が適正に行われること、そのために納税者の権利が保障されていることが必要であり、その代理人となる税理士が財務大臣の監督下に置かれていることを疑問視しなければならない。また、自治権を獲得することは同時に、税理士会がその懲戒等も適正に行うなど、国民の信頼に答えられる組織であることが必要である。

前回の税理士法の改正から5年がたち、新たな見直しが始まっている。税理士試験の受験者数減少など税理士会も危機感を持っているようであるが、何より国民の期待に応えられる税理士制度を目指さなければ、税理士にあこがれる人は増えないであろう。

(いのうえ・もとゆき:東京会)

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