リンクバナー
時潮

時潮
消費税増税の道は「憲法改正」へと続く
事務局長 吉元 伸
消費税は今年の10月から引き上げが予定されている。しかし今回の消費税の増税は、単なる税率のアップだけではない。増税と同時に複数税率の導入、そしてインボイス制度への変更が加わり、国民生活に大きな変化をもたらすことが予測される。しかし、相も変わらず十分な議論もされないまま成立。これらの変化が国民生活へ与える影響や事業者の事務負担の増大等を考えると、消費税は創設以来最大の転換点を迎えたと言える。
line
1、消費税の増税理由とは

そもそも、今回の消費税率は何のために引き上げられようとしているのか。この増税は、民主党政権下の2012年8月に、民主・自民・公明の「3党合意」で決まり、そして、この消費税増税分の使途については、「社会保障と税の一体改革」で決定している。その内訳は少子高齢化で膨らむ社会保障費に充てるという建前だったはずである。

しかし、安倍首相は一昨年の衆院選で増税分の使途を突如変更。幼児教育・保育の無償化を含む「全世代型社会保障制度」のために使うのだと訴えるようになった。さらに幼児教育の無償化を10月から始め、来年から高等教育の無償化をスタートするには、やはり消費税を10月から上げなければならないと時期についても譲れないと言明している。
line
2、複数税率導入理由とは

複数税率の導入に関しては、昨年の衆議院代表質問で公明党の斉藤鉄夫幹事長への答弁で次のように述べている。斉藤氏は、消費税率10%への引き上げに関し、「家計に対する最大の負担軽減策は軽減税率制度の実施だ」と主張。首相は「消費税の逆進性を緩和しつつ、買い物の都度、痛税感の緩和を実感できる利点がある」と答弁した。

 軽減税率は低所得者への生活費の負担軽減のため採用するとしている。しかし、結局のところ、どれだけ税率に差を設けてもまたその軽減範囲を拡大しても、高所得者のほうが金額としては多額の軽減をうけることになるため、格差自体は逆に拡大することになる。軽減税率の採用が逆進性を緩和するというのはまやかしに過ぎず、生活困窮者に課税すること自体矛盾をした発想になっている。したがって、軽減税率は、その税率の差に問題があるのではなく、複数の消費税率が存在すること自体に問題があり、さらに言えばこのような消費に課税する仕組みが応能負担に反しているからこそ、複数税率を入れざるを得ないことになるのである。税制をこのような形で歪めるのではなく、低所得者への配慮が本当に必要であるならば直接給付すれ済む話である。
line
3、「憲法改正」への道筋

自民党内にも反対論が強かった軽減税率をなぜ安倍首相が持ち出してきたのか。消費税の逆進性を和らげようとの低所得者の生活に思いが至ったわけでもなく、党内議論をし尽くした結果でもない。連立与党を組む公明党から軽減税率導入の強い要求があり、それを受け入れた結果だ。また、消費税の使途を急遽変えた理由は、日本維新の会の政策に配慮したためである。「教育無償化を実現する」方針は日本維新の会の選挙公約であり、同党が結党当初から最も力を入れている政策だ。安倍首相がこの維新の会の政策を受け入れて社会福祉政策を転換したのも、公明党の主張する軽減税率をとりいれたのも、憲法改正に必要な国会での三分の二の議員数を堅持することを今年の最大のテーマとしているからに他ならない。

このような政策の擦り寄りや抱き込みの姿勢は、憲法改正案そのものにも表れている。「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」安倍首相がこう語ったのは2017年の憲法記念日のこと。

安倍首相はそこで(1)9条の改正、(2)緊急事態条項の追加、(3)教育の充実(無償化)、(4)参院選合区の解消という改憲4項目を掲げた。

ここでは(1)の9条の改正が最も注目するところだが、安倍首相の改憲案では、9条1 項・2項には手を付けずに9条に新たに3項を追加し、自衛隊の存在を憲法上に明記するというもの。自民党の従来からの議論では、9条2項を外さないと自衛隊の実態との整合性が取れないという意見が主流を占めていたが、これをあっさりひっこめ3項を付け加えるいわゆる「加憲」へ転換した。立党以来「平和の党」を掲げ続ける公明党は、その支持者に9条2項の存続を求める声が多く、これに配慮した形となった。(3)の「教育の充実( 無償化)」も、「自衛隊の加憲」と同様に、憲法記念日の安倍首相のビデオメッセージで急遽優先順位が上がった改憲項目で、もちろんこの背景には日本維新の会の存在を意識してのことである。

このようにゆがんだ形で提案される諸政策は、もちろんまっとうな議論もされるはずもなく多数決の原理の中で成立していく。しかし、多数決の原理と、個人および少数派の権利の擁護とは、民主的な国家運営の基盤そのものを支える一対の柱である。多数決の原理は、公共の課題に関する決断を下すための手段であり、国家はその決断の結果として国民各界層にどのような影響を及ぼすかその成立過程で知らせる義務が生じている。国会はその責務を負っているのであり、それを煩わしいと回避する姿勢が、国民抑圧へと繋がる道であることは歴史が証明している。

(よしもと・しん:千葉会)

▲上に戻る