手元の「新人会50年史」によれば、1965年7月11日〜 13日、兵庫県有馬温泉にて税経新人会全国協議会が創立されました。その時の各地新人会は、東京、神奈川、神戸、大阪、熊本、名古屋の6単位会、同時に開催された全国研究集会には参加者76名と記録されています。爾来、52年間の歩みの中で、北は北海道から南は沖縄まで18単位会千名弱の組織に発展してきました。今日の到達点に確信を持つと共に前進の要因について考えてみたいと思います。
全国協議会の創立時の会則前文では、「わが国の憲法は、平和と主権在民を根本原理とし、すべての国民に民主主義的な諸権利を保障している。」「われわれは、みずからの職業を通じて、現行憲法にもとづく国民の諸権利を擁護することは、崇高な使命と考える。」と会の存在意義を確立し、今日に至る「私たちは、みずからの職業を通じて、憲法にもとづく国民の諸権利を擁護することを使命と考える。」と言う理念に引き継がれています。
全国協議会創立当時の時代背景を振り返ってみると、1967年の「中野民商事件」やその後につづく「荒川民商広田事件」など納税者の権利を侵害し強権的な税務調査が横行しました。「どんとこい税務署」で知られる吉田敏幸初代理事長をはじめ多くの新人会員が協力をしました。一連の税務調査をめぐる裁判を戦う中で、1972年の「川崎民商鈴木事件」の最高裁判決を経て、1976年に国税庁は「税務運営指針」を定めるに至りました。「税務運営指針」では「税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で納税者の理解と協力を得て行うもの」「一般の調査においては事前通知の励行に努め、また現況調査は必要最小限にとどめ、反面調査は客観的にみて、やむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。」と税務職員の職権と判断の恣意性を残しているが質問検査権に一定のワクをかけることになりました。
その後に於いても、商法改正反対運動、大型間接税導入反対、消費税反対、消費税仕入税額控除否認事件など納税者の諸権利を擁護する立場から取組をしてきました。
税理士制度の問題についても、国税通則法の制定と合わせるがごとく税理士法「改正」問題がわき起こりました。1964年には「改正法案」が国会に提出されました。この「改正」の最大の問題点は、税務行政経験者への資格認定問題と一般試験制度における科目別合格制度の廃止・一括試験制度の提案というものでした。税経新人会では、この問題点を明確にして反対の運動に立ち上がり、新人会会員事務所に勤務する受験生が中心になって反対会議を結成し国会の内外で科目合格制の維持を訴えました。税理士会も反対の国会要請を行い、1965年審議未了で廃案に追い込みました。1980年「改正」に際しても新人会の受験研究会は税理士試験制度改悪反対受験者連絡会を再結成して資格制度の改悪を訴えました。二度の受験生の反対運動の中から多くの人が合格後に税経新人会に入会しています。
これらの歴史を振り返ると、時代が「納税者の権利を擁護する税理士」を求めていた、組織強化の客観的条件をつかんだことが発展の要因だと思います。
今、税務調査をめぐる状況をとっても、事前通知の手続きにおいても手抜き・形骸化が散見されます。行政指導の名を借りた調査もどきも横行しています。さらには、「倉敷民商事件」や税理士の懲戒など税理士法を手段にして締め付けを強化してきています。国税通則法に国税犯則法を統合し「扇動罪」を犯則手続きと切り離して規定する、共謀罪に所得税法、法人税法、消費税法も対象にするなど、今後の税理士業務に影響を及ぼす懸念も指摘されています。巷では、税務調査に特化したメルマガや講習会に参加する税理士が多くいると言われています。施行されても運用させない研究と活動ができるのは、この53年の歴史で試され済みの税経新人会だけだと私は自負しています。税務調査など悩みを抱えた税理士に親身に相談に乗り共に考え得る会が税経新人会だと思います。私は、組織強化の客観的条件はあると確信をもっています。
同時に、組織強化は自然発生的にもたらされるものではありません。「新人会50年史」は、そのことも語っています。全国協議会結成の前史では、「1961年3月10日、関西の民主的職業会計人上京」と大阪、神戸、名古屋から上京した人を迎い入れた記述があります。その後も各地の人脈で意識的に呼びかけて組織を拡大してきました。いくつかの単位会では、「一人ぽっちの税理士をなくそう」「気楽に話し合い」など新たな取り組みも始まっています。公開例会など増員に結び付ける主体的条件をもっています。あとは一歩踏み出す意識です。
最近、年に二本ほど知らない納税者から税務調査の困りごと相談の電話がかかってきます。聞けば、「反面調査」「税務調査」でネット検索すると税経新人会のHPがヒットし、それで知ったとのことです。税経新人会は納税者にとって最後の砦。全国に張り巡らされた大きな峰にしようではありませんか。 |