主張・提言

税経新人会全国協議会は、7月22日に行われた全国理事会で、次の意見書を採決し、9月22日に各社マスコミ(新聞社)に送付しました。


共謀罪の廃止を求める意見書

共謀罪法の採決強行は許されない
安倍政権は、テロ対策のため国連組織犯罪防止条約を批准するという口実で「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、共謀罪法という)を多くの国民や野党が反対する中、十分な審議も経ず5月23日に衆議院本会議において採決を強行し、さらに、6月15日には参議院法務委員会の採決を経ずに、参議院本会議で強行採決を行った。

これは、加計学園疑惑の幕引きを計るという思惑による自公の数の力に任せた世論を無視した暴挙である。しかし、そもそも、国連組織犯罪防止条約は、マフィアなど国際的な犯罪組織の犯罪を加盟国が共同して取り締まるための条約であり、テロ対策のための条約ではない。

また、テロ対策等については、現行刑法や各国際条約に対応した特別法があり、現状の法体系で十分担保されている。その意味で、あえて共謀罪法を持ち出す必要はまったくないのである。さらに、共謀罪法は、既遂罪を原則とする現行刑法体系を180度覆すものであり、十分な国会審議と国民の理解なしに強行することは許されない。

共謀罪法の本質は何か
共謀罪法では、共謀の構成要件を、 組織的犯罪集団が、 計画(合意)をして、 実行準備行為を行うこととしている。しかし、本法律案の中で「組織的犯罪集団」の定義はない。国会の質疑では、暴力団や振り込め詐欺集団などを例示はしているが、これらに限定するとの答弁はない。そして、その認定は、捜査当局の裁量に任されているといっても過言ではない。したがって、普通の市民運動団体や労働組合がいつ「組織的犯罪集団」にされてしまうかその基準はまったく明らかにされていない。

また、計画(合意)ついても、何を基準として判定されるかは条文上明らかにされていない。そもそも、犯罪の「合意」があったとしても、それが、そこに参加した全員が「合意」しているのかどうかは、各参加者の心の中の問題であり客観的に「合意」を認定することは不可能である。

さらに、「実行準備行為」に至っては、国会の中でも議論されたが、「花見なのか、下見なのか」判定することはこれも各人の心の中の問題であるから誰も判断できない。

そうすると、一つには、電話盗聴やSNS・メールの盗み見など違法な捜査により心の中をのぞき見するようなことがまかり通る怖れが出てくる。現に、警察庁のホームページでは、「警察環境を取り巻く環境の変化に適切に対応していくため、会話傍受制度や仮想身分捜査、証人保護プログラム等さまざまな捜査手法について不断に検討を進めていく必要」としている。もう一つには、密告の横行である。計画(合意)があった場合に、そこに参加していた人が、捜査当局に通報すれば捜査当局は、その計画(合意)の当事者を監視し、実行準備行為があったと認定すれば、逮捕できることになる。

こうして、共謀罪法により我が国はマイナンバー制度の導入とあいまって民主国家から監視国家に変質してしまう危険がある。

共謀罪法は申告納税制度や税理士制度を変質させる
一方、我々税理士にとっても共謀罪法は重大な問題を孕んでいる。それは、共謀罪法の対象となっている277の法律の中に所得税法、法人税法、消費税法が含まれていることである。(別表3 52号・53号・66号)我が国は、申告納税制度に基づき納税者が自らの所得を計算し、確定申告により自らの納税額を確定する。従って、課税庁は、納税者のした確定申告についてその適正性を確認し、適正でないとの疑義がある場合に税務調査を行いその適正性を判断する。

その意味で税務の世界では任意調査でも犯則事件でも事後調査が通常の方法なのである。また、税務の世界では、節税、租税回避行為、脱税は紙一重のもので税務当局の判断により節税が脱税と認定されることも珍しくない。そうすると、納税者と税理士が節税をするための相談をしていた時に、それを聞いていた誰かが捜査当局に通報したら、その相談をした結果の会計処理をした段階で、実行準備行為として逮捕されかねないのである。

これは、我が国の申告納税制度を根底から覆しかねない重大な問題である。さらに、税理士法第2条では、税理士の業務として税務代理、税務書類の作成、税務相談を定めているが、特に税務相談について税理士が納税者から先に述べたような納税額をいかに少なくするかといった相談を受けた場合も、税理士が税務当局から「独立した公正な立場」(税理士法第1条)ではなく、課税当局や捜査当局の顔色をうかがうような立場で回答するようになりかねず、現行税理士制度も変質しかねないこととなる。

こうして、今後、納税者が自らの権利を主張するのではなく、いかに課税当局から脱税の嫌疑を受けないようにするという萎縮した気持ちになり、税理士も納税者の代理人として課税当局に税法の解釈適用や事実認定の問題について堂々と主張することが困難になるということが危惧される。そうなれば、現行の納税者の権利を軽視する課税当局の税務行政を益々助長する結果になるのではないだろうか。

おわりに
私たち税経新人会は、憲法に定められた国民の諸権利が侵害され、また、租税法律主義に基づく納税者と税理士の権利を侵害する恐れのある共謀罪法を即時廃止することを求めるとともに、これが廃止されるまで研究啓蒙活動を行っていくものである。
税経新人会全国協議会