主張・提言

税経新人会全国協議会は、6月16日に行われた全国常任理事会で、次の要望書を採決し、6月25日に主要政党と新聞社などのメディア宛てに送付しました。

2018年度税制改正大綱への意見書
税経新人会全国協議会
はじめに

2018年度税制改正大綱(以下「大綱」)の改正の中心は、「個人所得課税の見直し」、いわゆる「所得税改革」にあると考える。「大綱」の「所得税改革」に対して税経新人会全国協議会(以下「新人会」)としての意見を述べる。

2014年度の「大綱」において、所得税の課税ベースが侵害されているとして、見直しの方向が示された。今回は、働き方の多様性、様々な形で働く人を応援、「働き方改革」を後押しするために「個人所得税課税の見直し」を行うとしている。

「働き方改革」の本質は、長時間労働の促進、非正規雇用の拡大、実質賃金の低下をもたらすものであり、働く人の雇用条件、労働条件を悪化させるものであると考える。税制がそのような「改革」を応援することには異議を唱えるものである。

若者、女性、高齢者などの働き方が多様化しているのは、非正規雇用の増加などの働く人々の労働条件が悪化していることに原因があると考える。生活するのに十分な収入が得られない為に「多様な働き方」をせざるを得ない現状がある。政府の労働・雇用政策や社会保障政策の不十分さに原因がある。「大綱」は、そのことを助長するものとなっており、問題であると考える。

「大綱」は、給与所得控除と公的年金等控除を10万円引き下げ、基礎控除を10万円引き上げるとしている。このことで、給与収入850万円以上の「中間層」が増税となる。「大綱」は引き続き見直しを継続するとしており、働き方の多様性を理由に、給与所得控除や公的年金等控除のさらなる縮小を示している。このことは、給与所得者や年金受給者への増税である。基礎控除、給与所得控除、公的年金等控除の理念を明らかにすることで、「大綱」の庶民増税に反対する「新人会」の意見書とする。

基礎控除の根拠は憲法25条
私たちは働いて得た所得で、衣・食・住などの生活費を賄っていく必要がある。子育て、介護の支出、冠婚葬祭の支出もある。生活費に支出されたお金は、当然手元に残ることは無い。税を負担する能力、担税力は、生活費についてはゼロである。

憲法25条は、私たちに健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障している。最低限度の生活費に課税することは、最低生活の侵害であり、憲法25条に反することになる。憲法25条は最低生活費非課税の原則を示すものである。基礎控除、配偶者控除、扶養控除などの人的控除は生存権を保障するために設けられた控除制度であり、その根拠は憲法25条にあると言える。

「大綱」は基礎控除を38万円から48万円へ10万円引き上げるとしている。基礎控除は1995年以来38万円のままである。一日当たり1041円。所得税法は、私たちの生活費は1日1041円と考えており、それを超える分については課税するとしている。これが48万円に引上げられるとしても、1日当たり1315円で、生活実態とはかけ離れており、最低生活費非課税とする憲法25条に反するものである。

大阪府の最低賃金は1時間909円。1日8時間、月20日働くと14万5440円となる。年間では174万5280円である。基礎控除はその70%の120万円としても決して過大とは言えない。憲法25条の趣旨に沿った基礎控除額への引上げを強く要望する。

「大綱」は所得が2500万円を超えると基礎控除が消失する「逓減・消失型の所得控除方式」を提案している。基礎控除は、課税所得を計算するための控除であり、憲法25条に根拠を有するものである。所得の大小に関係なく全ての人に適用されるべき制度であると考える。

給与所得控除は勤労控除
会社員は、給与所得者となり、税金の計算において給与所得者控除や基礎控除を差し引く。しかし、フリーで業務単位の仕事を請負ったり、在宅で仕事を請負う場合は、事業所得者となる。事業所得は、収入から事業に係る必要経費や基礎控除を差し引いて税金の計算を行う。給与所得控除に相当するものはない。それ故、「大綱」は同じ仕事をしても税負担が異なり、現行の所得税法は多様な働き方に対応が出来ていないとする。現行の給与所得控除は課税ベースを侵害しており、勤務関連支出としても過大とし、給与所得控除は縮小し基礎控除に振り替えるとしている。

給与所得控除は、元々「勤労控除」との名称であった。戦後の「シャープ勧告」は、勤労控除の必要な理由を4点あげている。

個人の勤労年数の消耗に対する異種の減価償却
勤労による努力及び余暇の犠牲に対する報酬
普通の生活費以上にかかる経費に対する概算的な控除
他の所得に比べて相対的に正確な税法の適用を受ける

給与所得控除は労働者の労働力再生産費用とも言える。
請負などの個人事業者も、多くは資本や資産をもたず、勤労によって収入を得ている。事業所得者についても、勤労性の高い所得については勤労控除を認めるべきである。自己に対する賃金を認め、給与所得控除を適用することで給与所得者との公平が図れると考える。給与所得控除を縮小することで公平を意図する「大綱」の考えは本末転倒である。

公的年金等控除は高齢者の尊厳ある生活の保障
公的年金等控除は、現行では上限は無い。「大綱」は、上限が無いことや、他の所得のある高額所得者に手厚い仕組みとなっているとして、上限を設け、低年金収入の人も含めて、一律10万円縮小するとしている。

1987年までは、公的年金等は給与所得とみなされて給与所得控除の適用を受けていた。拠出時に給与から差し引かれ、退職後、給与の後払いとして給付されるとの考えである。給与からの拠出として勤労性所得といえる。退職により、生活の為の収入が途絶えること、年齢的にも十分な勤労は不可能であること、その中で個人として尊重される生活を送ることに対する税法上の措置が公的年金等控除である。

年金生活者の多くが働いているのは、「年金」だけでは食べていけないからである。高齢者の年金収入には公的年金等控除があり、給与収入には給与所得控除があり、世代間の不公平となり、高齢者の控除を縮小すべきとの「大綱」の議論は、これまた本末転倒といえる。安心して暮せる「年金制度」にすることこそが必要である。
公的年金等控除は、高齢者の尊厳ある生活を保障する制度であり、高齢者への控除は拡大すべきである。

まとめ
「大綱」の「所得税改革」は、給与所得者、年金受給者、零細な個人事業者に的をしぼった増税方針となっている。
配当収入、株式や土地の売却益は、いくら儲かっても、他の所得と分離して、国税15%地方税5%となっている。不公平税制の根本は、この大資産家優遇税制にあると考える。「大綱」はこの点については一切語らず、温存を決め込んでいる。
今必要なのは、生活費非課税・勤労所得軽課税・大資産家優遇税制の廃止・直接税中心の総合累進課税の税制であると考える。
以上