主張・提言

「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」
(法令解釈通達)の制定(案)に対する意見
2012(平成24)年7月31日
税経新人会全国協議会
理事長 清 家  裕
「通達」は、行政機関内部における下級機関に対する命令としての効果をもち得るにすぎず、国民の権利、義務を直接的に規定あるいは制限するものではなく、また、そこで示される法令の解釈は、司法の判断を拘束しないものである。

税務調査に対する考え方は、昭和51年に国税庁が「税務運営方針」を発表し、当該方針は安住財務大臣が国会で現に効力を有すると述べており、通達(案)がその方針を逸脱することは許されない。また、今回の国税通則法の改正は調 査手続について実務上行われてきたことを明文化したものであると説明されてきた。従って、調査権限が強化・拡大するものであってはならない。

以上のことを踏まえ、課税庁の法規解釈と事務の執行は、広く国民の権利に重大な影響を及ぼすものであり、その性格に鑑みて国民・納税者の権利を擁護する立場から検討を加え、以下、問題点を指摘し、追加・変更・削除を求める。

1.質問検査権の行使についての総論的解釈規定を設けること

(意見)
質問検査権の行使は、公権力の行使に当たり、納税者の基本的人権と密接にかかわること、及び質問検査権に関する「当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」(法第74条の8)という法の趣旨に鑑み納税義務者等の任意の協力に基づいて適正に行われるように努めるものとする。
また、罰則(法第127条1項2号、3号)による間接強制力があるとしても、任意調査であるという法の基本的構造に変わりはないので、納税義務者等に対し強制調査であるかのような威圧的な言動のないように心掛けなければならない。
当該職員は、この通達の運用に当たって現行の「税務運営方針」を順守するものとする。

(理由)
法令解釈通達であるならば、その基本的な立脚点が明確にされなければならない。
法第7章の2国税の調査において、質問検査権の行使は任意調査であることが明文化されていないことから、通達の前文として明確にする必要がある。個別の通達だけをみると、あたかも強制力があるような印象を与え、調査権限が強化されるおそれがあるため、税務職員に対して、調査権限の乱用がないよう宣言的にあるべき姿勢を掲げるべきである。
また、国会審議においても現行の税務運営方針について順守することが確認されていることから、当該職員に対しても日常的に順守するよう義務付けることが求められる。

【第1章 法第74条の2から法第74条の6までの関係】
2.1-1(調査の意義)、1-2(調査に該当しない行為)


(意見)
通達全文を削除すべきである。

(理由)
税務当局と納税義務者との接触の態様を、「調査」と「行政指導」の2つに区分することで、法第7章の2の各規定が適用される調査の範囲を明確化するとしているが、調査には、質問検査権の行使よりも広範な調査と行政指導が含まれているので、適切な表現とはいえない。また、1-2に掲げる項目を調査に該当しないと掲げることにより、これらの項目に列挙されていない法的根拠のない照会等は調査に含まれると誤認されかねない。このように1-1、1-2は通達として制定するには、不確かな要素がある。
また、税務運営方針は調査と指導の一体化を目指しており、調査と行政指導を区分する考え方はこの方針にも反する。

3.1-4(質問検査権の対象となる者の範囲)

(意見)
「使用人その他の従業者」は、削除すべきである。

(理由)
質問検査権の対象者について、「それぞれ各条に規定する者のほか、これらの者の代理人、使用人その他の従業者についても及ぶ」とあるが、代理人は当然としても「使用人その他の従業者」は法定されていないため、拡大解釈にあたり租税法律主義に反する。

4.1-5(質問検査権の対象となる帳簿書類その他の物件の範囲)

(意見)
「目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれる」を削除すべきである。
「(注)「帳簿書類その他の物件」には、国外において保存するものも含まれることに留意する。」は、削除すべきである。

(理由)
「目的を達成するために必要と認められる」とあるが、当該職員の裁量により無制限に拡大するおそれがある。法第74条の2から法第74条の6までに規定する帳簿書類その他の物件の範囲を通達で拡大解釈することは許されない。
また、職業上の守秘義務(例えば医師等の場合の患者の個人情報)が法令で定められているにもかかわらず、法律を守らなくてはならない公務員が、法令違反を教唆するような行為は現に慎まなくてはならない。

法の規定から直ちに国外で保存するものが含まれると解することはできない。
国外において保存するものについて範囲に含める場合は、法律で処置すべきである。

5.1-6(物件の提示又は提出の意義)

(意見)
青色申告制度や消費税の仕入税額控除など法令適用の上で要件とされている帳簿書類以外は、納税義務者があくまで任意に提示又は提出するものであることを記述すべきである。
特に、提出については、原則としてやむを得ない場合に限ることを明記すべきである。

(理由)
提示又は提出は、客観的必要性があるときに当該職員は求めることができるものであり、納税者の同意を得て実行されるものである。この通達の文言では、正当な理由がある場合以外は、強制的に提示又は提出に応じなければならないように受け取れる。
提出については、実地調査において確認することが大前提であるから例外的に行われることを明確にするべきである。

【第2章 法第74条の7関係(留置き)】
6.2-1(留置きの意義)


(意見)
2-1(2)は、削除すべきである。

(理由)
法第74条の7において、当該調査において提出された物件を留置くことができると規定している。提出があって初めて留置くことができるという関係である。提出する帳簿書類等が原本である場合、納税者が返還を求めないことは想定できないことから、コピーやプリントアウトした書類を予定していると思われる。しかし、法第7章の2の質問検査権の各規定において、提示・提出要求の対象となる物件につき、カッコ書きで、「その写しを含む」としており、当該規定により提出された物件は当然に留置くことになると解される。提出と留置きはセットが原則であり、例外規定を設ける必要はない。また、申告書や申請書、届出書等は返還を予定していないことと同様に、新たに作成した物件について留め置きに該当しない旨をことさら注書きする必要はない。

【第3章 法第74条の9から法第74条の11まで関係(事前通知及び調査の終了の際の手続)】
7.3-5(納税義務者の範囲)


(意見)
納税義務者の範囲に「法人の場合における役員若しくは納税申告書に署名した経理に関する事務の上席の責任者又は源泉徴収事務の責任者のように一定の業務執行の権限委任を受けている者」を入れるべきではない。

(理由)
通知、説明、勧奨又は交付の各手続きを受ける「納税義務者」は、納税義務者が未成年者の場合の法定代理人は理解できるが、法人の場合の代表者以外の役員や経理担当者、源泉徴収義務の責任者を含めることは適当ではない。権限をどの程度委譲しているかは個々の法人により異なるので、一律に納税義務者の範囲に含めるべきではない。

【【第2節 事前通知に関する事項関係】
8.通知する実地調査開始日よりどれくらい前に行うかの基準の設定


(意見)
法第74条の9第1項において、「あらかじめ」納税義務者に対し、通知すると規定している。「あらかじめ」とは、どれくらい前なのか、たとえば14日以上前までに通知するなどの具体的基準を政令で定めるべきである。

(理由)
調査の事前通知に関する規定において、納税義務者等に「あらかじめ」事前通知するとあるだけで、通知する実地調査開始予定日よりどれくらい前にするべきか政令にない。税制調査会や国会の審議においても、納税義務者等の予見可能性を高めるために事前通知を行う旨、政府委員は答弁している。調査の事前通知は、納税義務者等の側の事情を可能な限り考慮することを趣旨としていることを考えると、政令で具体的に明記すべきである。

9.4-5(「調査の対象となる期間」として事前通知した期間以外の期間に係る帳簿書類その他の物件【4-4】の例示)

(意見)
調査の目的を達成するために必要あるときは、例えば、「調査の対象となる期間」として事前通知した期間以外の期間(進行年度分を含む)に係る帳簿書類その他の物件も含むとあるが、次のように改訂すべきである。
調査の対象期間を原則3年以内とすることを明記すべきである。
「事前通知した期間以外の分を期間(進行年度分を含む)は削除すべきである。

(理由)
調査の事前通知をする際の対象期間が当該職員に任されることがないよう、現行実施にならい3年以内と規準を明記すべきである。

法第74条の9第1項により、事前通知する項目として、調査の対象となる期間を規定しているのを通達で、通知以外の期間も含まれるとするのでは、事前通知規定を設けた意味を持たない。売掛金、棚卸、仕掛などの期ズレに関する確認をする場合には、事前に申告年度分の該当する箇所を確認する旨を通知すべきである。
また、個別に対象期間以外の期間について調査する必要があるときは、納税義務者に説明し、必要な該当箇所に限ることを明記すべきである。

注書きで、通知した対象期間の前と後ろの各1年について質問検査権を行うことは可能であるとするのは、法律に規定していないことであり、乱用につながる。

10.4-6(事前通知した日時等の変更に係る合理的な理由)

(意見)
合理的な理由の例示に掲げている一時的な入院や親族等の葬儀は削除し、納税義務者等の業務上やむを得ない事情や納税義務者等の私的な事情の申し出に対して日程の変更を行うことを明記すべきである。

(理由)
調査を開始する日時と調査を行う場所については、変更するよう求めがあった場合には、「協議するよう努めるものとする」と法律に明記されたが、従前より、事前通知を受けて、納税義務者等の都合を調整して、日程の変更をしてきたことからすると、この通達の合理的な理由の例示は入院や葬儀といったものに限定しようとしている。納税義務者等の私的な事情についても合理的な事情に含め、配慮するよう注意を促すべきである。

11.4-8(「違法又は不当な行為」の範囲)

(意見)
全文削除すべきである。

(理由)
法第74条の10の事前通知を要しない場合の「違法又は不当な行為」の範囲を解説していると思われるが、具体的に何を想定しているのか明確でないため、通達としては不適切である。

12.4-9(「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認められる場合の例示)

(意見)
全文削除すべきである。

(理由)
(1)から(5)までの各項の文末はすべて「・・・合理的に推認される場合」となっており、法第74条の10の「・・・おそれがあると認められる場合」より、一層不明瞭な表現になっている。また、例示されている事項はいずれも納税者を犯罪者扱いする不穏当な表現になっている。「犯罪捜査のために認められたもの」でない質問検査権の通達にふさわしくないので削除すべきである。

そもそも事前通知をしない調査は、例外的に規定されたものであり、具体的な事由に該当する場合に限って行われるものである。当該職員は事前通知をしない調査をする場合には、客観的に、第三者がみても一般的に妥当と判断できるものでなければならない。従って、「例示」とは、考え方の結果を「例示」しているものであり、通達で職員に指示すべき事項は考え方であることに留意しなくてはならない。

加えて、税制調査会でも指摘されていたように、事前通知をしないという不利益を被った納税者が、なぜ不利益を被むらなくてはならなかったか、その判断結果の過程や判断に使用した資料などは、当該当事者に情報開示するための取りまとめ要領を作成し、パブリックコメントで意見を確認してから実施すべきである。

13.4-10(「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認められる場合の例示)

(意見)
全文削除すべきである。

(理由)
例示は通達として不適切である。例示以外の事実が生じた場合に職員が判断できるような明確な判断基準を示すべきである。判断基準を示さず例示のみを指示するのは、指導機関として職務放棄にほかならない。

今回の例示の内容は以下の問題点を有する。
(1)の「税務代理人以外の第三者が調査立会いを求めるなど」の行為、調査の適正な遂行に支障を及ぼすかどうかは事前通知の有無に直接関係するものではない。そもそも誰に立ち会ってもらうかは納税義務者の選択に委ねられるべきである。
(2)の電話等の連絡の応答を拒否する、あるいは応答がなかった場合をあげているが、電話連絡が取れないことが、調査の適正な遂行に支障をきたすとは限らない。電話連絡がつかなければ書面による通知を行うなど対処の仕方はほかにもある。
(3)事前通知先が判明しない場合になぜ事前通知なしの臨場が可能なのか、理解できない。例示として不適切である。

【第3節 調査の終了の再の手続に関する事項】
14.5-3(更正決定等をすべきと認めた額の意義)


(意見)
更正決定等をすべきと認めた額の中に「加算税又は過怠税」が含まれているが、削除すべきである。

(理由)
賦課決定方式を採用する「加算税又は過怠税」は、担当者や納税者が判断すべきものではない。

【第5節 税務代理人に関する事項】
15.7-1(税務代理人を通じた事前通知事項の通知)


(意見)
ただし書きの納税義務者の申立てにより、税務代理人を通じて納税義務者へ当該事項を通知することを認める文言は削除すべきである。

(理由)
納税義務者に対し通知することを原則とし、税務代理人がある場合は、当該税務代理人に対しても通知すると明記し双方に通知することが法律に規定された。「納税義務者の申立てがあったときは」とあるが、当該職員から実地調査の通知を電話で受けた際に、申立てがあったかどうかは確認が取れないことから、後日トラブルになる可能性もあるので、双方に通知すべきである。
以上