資料

 
昭和47年5月 日

税理士法改正に関する
基 本 要 綱

日本税理士会連合会



改正の「基本的考え方」

1. 使命の明確化

 租税は憲法に由来している。租税法律主義、または、「代表なければ課税なし」の原則確立のための経緯が、近代憲法成立史の主要テーマをなしており、納税義務(憲法第30条)は租税法律主義(憲法第84条)の楯の反面として理解されるべきものとされている。

 税理士は、租税に関する職業専門家であり、納税者の代理人として実定法による納税義務の実現および権利救済に奉仕することは当然であるが、さらに、租税の憲法的意義をふまえて、租税制度全般にわたって国民の権利を擁護すべき立場を堅持すべきものと認められる。

 したがって、現行税理士法の「税理士の職責」についての第1条の規定を基本的に改め、「税理士は、租税に関する国民の権利を擁護し、納税義務の適正な実現をはかる」ことを「税理士の使命」として宣言的に規定して、税理士制度の本質を明確にすることが強く要請される。

 なお、税理士は、もともと受任者として委任の本旨にしたがって、善良なる管理者の注意をもって、委任事務を処理すべきであるが、そこにさらに誠実さが加えられることが要請され、職務上一般人以上の高度の道義に律せられるべきは当然である。

 また、租税は近代国家にとって不可欠のものであるので、税理士は、租税制度の維持ならびにその進歩改善に努力しなければならないことも当然である。
 したがって、これらのことも税理士の使命に加えて規定されるべきものである。

 そして、このような本質的性格を有する税理士制度に脱皮するために、「税理士の使命感」をあたらしい理念として、税理士法の各条項にわたって検討を加え、改正を要する事項と、その理由とを明らかにした。

 なお、各条項の討議にさいしてとられた「基本的考え方」はつぎのとおりであり、それらのすべての根源は「税理士の使命」に求められるのであるが、そもそも税理士制度は国民のためにある以上、本要綱の作成にあたっては 「国民のための税理士制度の確立」という理想がその底に一貫して流れていることを忘れてはならない。

 また、税理士制度を医師、弁護士等の制度に比較するとき、その歴史が浅いためか、業務、資格等についての純粋、独立性ともいうべき点で、後進的性格を残している。

 このような現状を打破して、税理士制度の本質およびその機能が社会的に高く評価され、真の自由職業として他の職業に侵犯されない固有の職業分野を確立し、この制度の社会的地位が向上することを強く期待して作業を進められたことも銘記すべきである。


2. 資質の確保、向上

 税理士の使命は崇高で、その業務は国民の権利、義務に直接関連があるため、その資質の確保、向上をはかる改正がなされるべきであり、税理士の資質の向上については、知識、技能と人格品性の両面にわたって検討されるべきものである。

(1) 税理士試験等資格取得制度の根本的改正

 自由職業といわれる弁護士等の資格取得制度は、高度の試験によることが原則であり、無試験で資格を取得できる特権のある者を、最高裁判所判事、大学教授等きわめて、小範囲のものに限定し、その他は、機会均等の意味からも広く門戸を開放する一方、あわせて上記の原則を頁いている。

 しかるに、現行税理士法は、試験制度を採用してはいるが、弁護士、公認会計士の試験に比較するとき、安易に過ぎるとの批判を免れないとともに、無試験で資格を付与される者等特権ある者が広範囲にわたっている。

 また、昭和31隼に5年間を限って暫定的に設けられた特別試験が未だに廃止されないで存続している。

 税理士がその使命を完遂し、社会的機能を十分に果すためには、一般教養のほかに高度の税法および会計に関する専門的知識を有すべきことは当然である。

 それゆえに、試験制度、資格取得制度を抜本的に改正し、弁護士等の制度に比肩するものとすることを理想として検討を加えてきたのであるが、特別試験制度の存在が大きな障害となって理想的制度への前進を不可能ならしめた。

 特別試験は、税理士制度の本質に背馳する多くの重大な欠陥と矛盾を内蔵しており、このまま存続するときは、税理士制度を崩壊に導くことは必定である。

 理想的試験制度、資格取得制度への飛躍前進のために、特別試験は一日も早く廃止される必要があり、今回の税理士法の改正にさいしては、他の一切の事項に優先するといっても過言でない。

(2) 税理士倫理の確立

 税理士として、高度の使命を果し、その職責を遂行するためには、深い教養を保持するとともに高い品性の陶冶に努めなければならないことは当然である。税理士会が懲戒権を取得し、自主性を確立することとあわせて、税理士倫理の確立が期待されるゆえんである。

 よって、ここにあらたに税理士の倫理規定を導入し、精神的な規定をもってその旨を明確にするとともに、紀律規定の整備を図ることが必要である。また、税理士でない者の税理士業務の制限に関連して、税理士の倫理の問題として、「税理士は、税理士でない者に雇用されて、その者の業務の一環として税理士事務を行なうこと、ならびに税理士でない者との提携を禁止する」こととするとともに、公務員であった者が離職後税理士業整を行なうにあたっては、在職中の地位を利用した不当行為のないよう、その制限を強化すべきである。


3. 自主権の確立

 税理士の使命は、国民の租税に関する権利の擁護と義務の履行をはかることを目的としている。

 また、公務員は、日本国憲法において、「この憲法を尊重し、擁護する義務を負う」ことが定められ(第99条)ているのであるから、税務当局が、国民の権利を擁護し、納税義務の適正な実現をはかる責務を有することもまた当然である。

 したがって、税理士と税務当局とは同じ使命と責任を有することとなるが、立場の相違から、税法の解釈適用あるいは事実の認定に関連して対立関係に立つ場合のあることは避けられないことである。

 このような場合に、納税者の代理人である税理士は、納税者の権利を擁護するために税務官公署と対等の立場に立つ自由職業人として、権力的な拘束をうけることなしに、自由闊達に、その主張を述べ、折衝にあたるべきことも当然で、このような立場がつねに税理士に保証されていなければならない。

 しかるに、現行税理士法では、税理士の懲戒権および税理士業務の適正な運営を確保するための質問検査権が国税庁長官にあり、また、税理士会および日本税理士会連合会の会則等に関する監督、ならびに、その他一般的監督権は大蔵大臣が保有するなど、税理士および税理士会は税務当局から監督される立場に置かれている。しかし、税理士がこのような立場におかれていることは、納税者の権利を擁護することを困難にし、その使命の達成が危ぶまれる。

 弁護士、税理士等は、本来的に自由職業人であって、公共の福祉に反しない限り、監督官庁を持たないことが当然とされるべきで、弁護士の場合は、新憲法施行後に懲戒監督について自主性を持つに至っている。

 したがって、税理士法も弁護士法の先例にならい、会則その他一般的監督権および懲戒権ならびに税理士業務に関する質問、検査権等は、税理士会券よび日本税理士会連合会の自主性に委ね、その手続および救済規定を整備する必要がある。

 なお、懲戒処分の効力の発生時期は、判決の確定したときであることを明確にするとともに、懲戒処分の手続きに付された税理士は、その手続きが結了するまで登録抹消の請求ができないように規定を整えるべきである。

 また、税理士の登録については、登録即入会の制度に改めるとともに、登録の進達および取消についての規定を整備すべきである。


4. 業務の拡大と整備

 税理士がその使命を全うするためには、税理士業務を拡大するとともに合理的に整備する必要がある。すなわち、税理士は、ひろく国税および地方税に関する事務を行なうことを税理士の業務とすべきである。

 ところで、現行税理士法は、対象税目について限定列挙しているが、これは包括的な規定に改めるべきである。また、税理士は、納税者の権利を擁護すべき使命を有するのであるから、事案関与の最初から訴訟の段階に至るまで一貫して代理機能を尽すことが望ましいので、弁理士法にならって、税務訴訟事件に関しては税理士が訴訟代理人となる途をひらくべきものと認められる。なお、税理士が、税理士業務を行なう過程で企業の会計業務を扱っていることは周知の事実であるので、その実態にあわせて会計業務を税理士の付随業務に加えることが適当である。


5. 権利義務の拡充と整備

 税理士が、その使命および職責を果すためには高い資質が要請されるとともに、税務官公署の監督から離脱すべきことはすでに述べたとおりであるが、なお、税理士の権利義務についても拡充、整備される必要がある。

 現行税理士法は、義務のみ多くして権利なきもの、といわれている。このことは、調査の事前通知や、計算し、整理した書面を提出した場合における意見の聴取などの規定はあるが、その措置の有無は行政処分の効力に影響がない、とされている点からもうかがえる。

 弁護士は、刑事訴訟法において弁護人として、被告人の正当な利益を保護するために包括的な代理権を有するほかに、固有権を有するものとされている。

 したがって、税理士の場合も、規定の整備を行なって、調査の事前通知および意見の聴取を税理士の権利とし、その措置の有無が行政処分の効力に影響をおよぼすことを明確に規定するとともに、税理士は、その関与する事案について、税務官公署に対し、書類の閲覧、謄写および撮影の請求をする権利を有するものとすべきである。

 また、義務に関する規定のうち、帳簿作成の義務、報酬の制限等については税理士会の自主性に委ねるほか、税理士の事務所の名称を統一し、その数は一ケ所に限定すべきである。


6. 税理士業務の制限の徹底

 税理士業務を、いわゆる独占業務として、税理士でない者がこの業務を行なってはならないとした理由は、これらが国民の権利義務に重大な影響があり、きわめて高い公共性が要請されるとともに、税法の内容が複雑多岐にわたっているために、高度の専門的知識を有する者でなければ正確適正にこれを処理できないことと、とくに財産権にかかわるものであるため、これを扱う者の人格品性の陶冶が要請されることによる。ところが、一方では非税理士行為や類似行為があとを絶たず、そのために、国民の正当な権利が不当に侵害されている事例が多く見受けられる。

 したがって、専門的知識と人格品性についてなんらの保証が得られない非税理士による税理士業務の制限が一層厳格に要請されなければならない。

 そこで、現行税理士法の業務制限に関する規定を明確にし、非税理士が税理士業務の周旋をすることなども、税理士業務の制限違反に該当する旨を明確にする必要がある。

 このことについては、税理士の側からも非税理士との提携等についての禁止規定を設けるべきことについて、税理士の倫理の項で述べたとおりである。

 なお、臨時の税務書類作成等の資格付与制度は、税理士業務を独占業務とした税理士法の趣旨に反するので廃止されるのが当然である。また、いわゆる通知弁護士、通知公認会計士制度も、税理士制度の統一的な運用のために廃止すべきである。


第1 税理士の使命

「標題」を税理士の使命とし、つぎのように改める。

(1) 税理士は、納税者の権利を擁護し、法律に定められた納税義務の適正な実現をはかることを使命とする。

(2) 税理士は、前項の使命にもとづき、誠実にその職務を行ない、納税者の信頼にこたえるとともに、租税制度の改善に努力しなければならない。

(理由) 現行税理士法は「中正な立場」という曖昧な表現と、大蔵省、国税庁の税理士会および税理士に対する直接の監督権とがあいまって、税理士制度をたんに税務行政の補助機関としてとらえているきらいがある。

 近代国家では、国民と国家は平等の法主体者であり、ともに法の支配をうけ、租税を国民の発意ある立法事項とすることにより、権利義務関係、すなわち法律関係としている。

 社会情勢、経済活動の進展は、納税者の代理人として税理士制度を生み出し、税理士をして、納税者の良き代理人としての職業専門家を期待している。

 したがって、税理士は、租税法律主義にもとづき、納税者の権利を擁護し、適正な納税義務の実現を図ることを使命として明確に規定するとともに、誠実にその職務を行ない、租税正義の実現のために、租税制度の改善に努力すべきことを明定することは、税理士制度に対する社会的要請に応えるゆえんである。


第2 税理士の倫理

 あらたに税理士の倫理規定を明確にし、つぎのように規定する。
 税理士は、その使命にかんがみ、つねに深い教養の保持と、高い品性の陶冶に努め、税理士業務に関連する法令と実務に精通しなければならない。

(理由) この規定は、「税理士の使命」にかかげる、高度な社会公共的職務を果すためと、自主権を獲得し、自主性を高めて行くための前提要件として、税理士がいかにあるべきかを定める精神的規定である。


第3 税理士の業務

1. 対象税目

 現行の限定列挙を改め、包括的に規定する。ただし、税理士の独占業務とすることが不適当な税目は、独占業務から除外する。

(理由) わが国の申告納税方式は、現在、直接税のみでなく間接税にもおよんでおり、また、国ならびに地方の財政上および政策上の要請により、税目の改廃、または新設がしばしば行なわれている。ところが、現行税理士法第2条は、税理士業務の税目を限定列挙しており、これでは税目の改廃、新設に対応しがたい。したがって、税理士業務の対象となる租税の範囲は、包括的に規定すべきである。

 ただし、関税、とん税、通行税など、税理士の独占業務とすることが必ずしも適当でない税目については、税理士以外の者でもその業務を行なうことができることとする。


2. 独占業務

(1) 税務代理
「その他の事項(訴訟を除く。)につき代理すること。」 を改め、「主張、陳述その他の事項(訴訟を除く。)につき代理すること。」と規定する。

(理由)公法、私法を問わず、代理の規定は、特殊な事項を除き、ひろく一般に認められている。しかるに、現行税理士法第2条第1号における「その他の事項」の文言は明確を欠くので、これを「主張、陳述その他の事項」と具体的に改め、税理士が納税者の代理人として、その使命を十分果せるようにすべきである。


(2)税務書類の範囲
 税務官公署へ提出することを直接の目的として作成する財務書類、その他の書類は税務書類であることを明確に規定する。

(理由) 現行税理士法第2条第2号では、申告書、申請書、請求書その他税務官公署に提出する書類を作成することを税理士の独占業務としている。「その他税務官公署に提出する書類」とは、税法の規定にもとづいて提出する一切の書類を指すものと考えられるが、たとえば、法人税の申告書に添付すべきものとされている財務書類が、これに該当するかどうか、必ずしも明確ではない。そこで、税務官公署へ提出することを直接の目的として作成する財務書類、その他の書類についても税務書類であることを、法文上明確に規定すべきである。


(3) 税務相談
 税務書類の作成についての相談も、税務相談に含まれる旨、明確に規定する。

(理由) 現行税理士法第2条第3号においては、税務書類の作成についての相談が、税務相談に含まれるかどうか、法文上明確を欠くので、税務書類の作成に関する相談も、税務相談に含まれる旨、明確に規定すべきである。

 また、「相談に応ずる」とは、具体的にどのようなことをいっているのか、必ずしも明確ではないが、税理士法の目的からすれは、納税者が当面する個別的事案につき、専門的知識を提供することであると考えられるから、ここでは、当然に個別事案と解され、一般的、普遍的なものは含まれないであろう。これに関し、その個別、具体性をさらに明確にすべしとの意見もあるが、納税者が必要とする相談事案は、課税標準および税額に直接関連するものはかりではなく、租税法令上の権利、義務の一切におよぶので、とくにこのように限定すべきではない。


3. 付随業務

(1) 会計業務
 税理士は、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ財務書類を作成し、財務に関する相談に応じ、その他財務に関する事務を行なうことができることを、明確に規定する。

(理由) 会計業務は、法人税、所得税等の課税標準および税額を算定するさいの前提条件であり、税理士の業務の主要な部分をなしている。これは、租税についての税務代理および税務書類の作成に欠かすことのできない要件である。したがって、税理士のこのような社会的機能を重視し、税理士が、その名称を用いて、会計業務を行なうことができる旨、法文上明確に規定すべきである。


(2) 税務訴訟代理

 税理士は、租税に関する訴訟について、訴訟代理人となることができる旨規定する。

(理由) 税務訴訟においては、とくに租税法令および会計に関し、専門的な知識と実務応用能力とが要求される。

 したがって、弁理士が一定の裁判所を専属管轄とする特許等の審判事件に関し、訴訟代理人たる資格を有していると同様に、税理士に税務訴訟に関する代理人としての資格を付与することが実際的である。このことは、納税者の権利を擁護することを使命とする税理士の社会的な役割からしても、事案関与の当初から訴訟の段階に至るまで一貫して代理機能を果すこととなり、当然に要請されるべきことである。

 民事訴訟法第88条に補佐人制度があるが、この制度を活用することにより、直ちに納税者の権利救済に万全の保障がえられるわけでもない。一方また、弁理士法第9条の規定にならい「税務に関する事項について裁判所において当事者または訴訟代理人とともに出頭し、陳述することができる。」旨税理士法に規定すれば足りる、との見方もあるが、税務に関して税理士に訴訟代理権を与えることは、納税者が、租税法令および会計に関する専門家を税務訴訟の代理人として依頼できる途を開くこととなり、納税者の権利救済の実現に役立つこととなる。


 

第4 税理士の資格

1. 税理士の資格付与

 税理士の資格は、税理士法立法の本旨にも照らし、税埋士試験に合格した者にだけ付与することとし、弁護士および公認会計士に無条件で税理士となる資格を与えている現行制度は廃止する。

(理由) 資格試験の本質は、その資格を付与するに値いする学識と能力の有無を判定するためのものであるから、その資格試験に合格した者にだけ資格が与えられ、その試験を経なければ資格が与えられないことが制度上の原則でなければならない。現行税理士法では、弁護士と公認会計士は無条件で税理士となる資格を認められているが、弁護士は司法試験により、公認会計士は公認会計士試験によって、それぞれの資格に値いする学識と能力の判定をうけているが、税理士となる適格性の判定は未だうけていないのであるから、無条件で税理士の資格を与えることは不合理である。

 税理士の職務は、税法ならびに会計の学識と実務に精通することによってのみ、これを適正に行なうことができる。弁護士は、法律一般に関しては高度の学識を有するとしても、会計の学識と実務に精通しているとは必ずしもいえない。また、公認会計士は、会計学に精通してはいても、必ずしも税務に関する法令と実務に精通しているとはいえない。

 したがって、弁護士と公認会計士とについても、税理士の資格を付与するためには税理士試験を課し、税理士としての適格性の判定を経なければならない。


2. 実務経験

 実務経験の認定の基準を整備し、現行制度を維持する。

(理由) 現行税理士法第3条では、税理士の資格付与の要件として、税理士試験に合格することともに、2年以上の実務経験を必要とすることを要件としている。税理士の職務の重要性にかんがみ、この程度の要件は必要であるので、現行制度を維持することが適当である。ただし、実務経験の認定が形式にながれ、この制度の趣旨が十分に活かされていない憾みがあるので、実務経験を認定する基準を整備し、厳格に規定すべきである。


 

第5 税理士の試験制度

 試験制度の改正は、特別試験制度を完全に撤廃後抜本的に行なわれるべきである。

(理由) 税理士が、その使命を完遂し、社会的機能を十分に果すためには、一般教養のほかに、高度な、税法および会計に関する専門的知識を有すべきことは当然である。したがって、試験制度、資格取得制度を抜本的に改正し、弁護士等の制度に比肩しうるものとすべきものと考えられ、この基本方針のもとに試験制度について検討されたのであるが、特別試験の存在が大きな障害となって、試験制度の改正案を確定できない。

 このため、一般試験は、当面現行法のままとし、その改正は、特別試験全廃後に持ち越さざるをえない。


1. 特別試験制度

 廃止する。

(理由) (1) 特別試験制度は、一般試験制度との矛盾が極度にはげしいばかりでなく、この制匿の存続は、税理士が、税理士法改正の目標としている、租税法律主義の基盤に立って、納税者の代理人としての権利を擁護する、という高い社会公共的使命を有する税理士制度を築くうえで最大の障害である。

(2) 税理士試験は、税理士の使命達成に敵格な資質をそなえているかどうかを判定するためのものであり、その資格付与には高度の国家試験を課するのを原則とするのは当然である。国が実施する資格試験であるからには、ひろく全国民に門戸を開放するとともに、同一の試験によって、その資質と知識が検証されなければならない。

(3) 税務官公署に一定年限以上勤務したことをもって、試験科目や試験内容に特別の取扱いをし、無試験にも等しいような合格率をもって税理士の資格を付与している特別試験を受験できる税務職員は、一般試験受験者に較べてまさしく特権階級である。日本国憲法が、「すべて国民は、法の下に平等であって、・・・差別されない」としている趣旨からみても、このような不合理な差別と特権が許されるべきではない。このような差別試験は、資格付与の制度としてはなはだ疑間であり、特別試験は違憲の疑いさえある。

(4) 他の国家試験における立法例をみても、代書的業務が主体となっている職業専門家の場合には、行政官庁における実務経験にもとづき、無試験による資格付与制度が存在する例はあるが、税理士は、その使命と業務にみられるごとく、納税者の権利、義務に直接関連する高度な社会公共的業務であり、その業務を遂行するためには、高度の法律、会計の専門的判断を必要とする。税理士は、書類の作成や事務折衝を主たる業務としていないことは明白である。税務官公署に永年勤続した者の退職後の生活保障的役割を税理士制度に求めるべきではない。

(5) 持別試験制度を存置することは、税理士制度が、税務官公署の補助機関となり、かつ、税務行政の一端を税理士が分担するかのごとき認識を納税者、国民に与え、その結果、納税者の信頼を失ない、税理士制度を崩壌させる原因ともなる。

(6) 昭和46年3月現在、未登録の、いわゆる潜在税理士が1万6千名(うち、1万4千は特別試験合格者)をこえており、登録税理士の70%にも達している。 最近の10年間に、登録税理士の数は2倍となったが、中小企業の数は30%弱の増加と考えられる。昭和40年から、登録税理士の増加のうち、一般試験の合格者は毎年12%づつの増加であるが、特別試験合格者の登録は3倍となっている。現在、1万4千名以上に達している未登録の特別試験合格者と、今後、国税関係公務員およびその数倍におよぶ地方税関係公務員からの流入とを考えると税理士の資格そのものが、いわは悪性インフレ的症状を呈しており、登録税理士および登録開業の機会を待っている、いわゆる潜在税理士にとって切実な問題である。税理士制度は、この面からも危機にさらされている。


 

第6 税理士の登録制度

1. 税理士の登録(登録即入会)

 税埋士となるには、入会しようとする税理士会を経て、日本税理士会連合会に登録の請求をし、日本税理士会連合会に備える税理士名簿に登録されなければならない。

(理由) 税理士の資格を付与されるには、税理士名簿に登録されることを要件とし、登録を受けるには税理士会に入会することを要件としなければならない。ところで、税理士の登録事務は、日本税理士会連合会が、国の行うべき行政事務の一部を移譲されてこれを代行している。税理士団体の自主性と税理士に対する監督権保持の見地からは、この制度を維持することが適当であるが、登録即入会の原則を明らかにするため、上記のとおり改める必要がある。


2. 登録すべき事項

 氏名、生年月日、事務所の所在のほか、事務所の名称を登録事項に加える。このほかの登録事項、登録申請書の様式、その他の登録に関する細目は、日本税理士会連合会が定める。

(理由) 登録即入会を要件とするため、事務所の名称も登録事項とするのが適当である。
 事務所の名称統一については、第7の7(事務所設置の義務)を参照。
なお、税理士団体の自主性保持のため、登録に関する細目は、日本税理士会連合会が定めることとすべきである。


3. 登録調査の権限

 資格審査会は、審査に関し必要があるときは、当事者、関係人および官公署その他に対して、説明、陳述または資料の提出を求めることができることとする。

(理由) 現行税理士法では、登録調査についての権限が明示されていないため、登録調査を円滑に行ない、その目的を十分に果すうえに支障をきたしている。したがって、日本税理士会連合会は、国の行政権の一部としての登録事務を代行するとともに、これにともなう資格審査のための調査の権限をも保有することを明文化して、登録事務の円滑化をはかる必要がある。


4. 登録拒否事由

(1) 第24条第7号をつぎのとおり改める。
「税理士の信用又は品位を著しく害する虞があり、その他税理士の使命に照らし税理士としての適格性を欠く者」。

(理由) 税理士の職責を使命と改めたことと、恣意による判断を慎重ならしめるための変更である。


(2) 第24条第1号につぎのものを加える。 不動産鑑定士、不動産鑑定士補、社会保険労務士 (理由)その後の職業立法により、あらたに資格制度が設けられているので実情にあわせる必要がある。


(3) 登録拒否事由につぎの2項目を加える。

(イ) 現行税理士法第52条(税理士業務の制限)および第53条第1項(名称の使用制限)に違反し、その行為があった日から2年を経過しない者。

(ロ) 官公署において、国税、または地方税に関する事務に従事していた者が、在職中に、自己または他人のために税理士業務の受託の約束をし、または周旋をし、もしくは申出、または他人をしてこれらの行為をさせた場合において、離職の日から2年を経過しない者。

(理由) (イ) 実質的には税理士法第52条および第53条第1項に違反したにもかかわらず、起訴猶予等により処罰の対象とならなかった者の登録を制限するためである。
(ロ) 現職の税務職員が、税理士開業の準備のため、関与先獲得の運動を行なうことを防止するためである。


5. 登録の取消し

 第25条第1項の「登録を受ける資格に関する重要事項」 を明確にすべきである。

(理由) 登録申請書に記載すべき事項を記載せず、または虚偽の記載をして登録を受けた者が、のちにその事案が判明したときに、当該登録を取り消すことができるための根拠となるべき重要事項が不明確であるので、具体的に明示すべきである。


6. 登録拒否等に対する救済

(イ) 登録を拒否された者および登録を取消された者が、不服申立てをした場合の決定権は、日本税理士会連合会に別に設置される不服審査会が保有することとする。

(ロ) 不服審査会が決定を行なう場合は、事前に必ず、登録を拒否された者および登録を取消された者に意見を述べる機会を与えなければならない。

(ハ) 日本税理士会連合会が、不服審査会の決定にもとづいて行なった処分に対し、なお不服のある者は、東京高等裁判所にその取消しの訴えを提起することができる。

(理由) 現行税理士法第24条の2は、審査裁決権を国税庁長官が保有することとしているが、税理士団体の自主性を尊重する見地から、登録拒否等に対する不服申立てについての決定権は、日本税理士会連合会に別に設置される不服審査会が保有することとし、なおこの決定に不服のある者は、行政事件訴訟法にもとづき、東京高等裁判所にその取消しの訴えを提起して救済を求める途をひらいておくことが適当である。


 

第7 税理士の権利および義務

1. 税理士の代理権限等

(イ) 税理士は、税務代理をするときには、代理の範囲を明示した委任状を税務官公署に提出することとし、この場合において提出する税務書類には、税理士の署名押印だけで足りるものとする。

(ロ) (イ) の場合および税務書類の作成の場合の税理士の署 名押印には、弁護士たる税理士、または公認会計士たる税理士である旨の付記は不要とする。

(理由) (イ) 税理士が税務代理をするときは、委任者の署名押印した委任状を税務官公署に提出して、代理権限およびその範囲を明確にするとともに、代理権を有する税理士が提出する税務書類には、税理士の署名押印だけで足りることとすべきである。
 課税標準および税額の計算が委任の範囲に含まれている場合は、その旨を委任状に明確に記載することが必要である。

(ロ) 弁護士たる税理士、または、公認会計士たる税理士である旨の付記は、実際上不要であり、これがあるため何らかの差別的取扱があってはならないので廃止すべきである。


2. 調査の通知

 税理士が、代理権限を証する委任状を提出した事案について、税務官公署が調査する場合には、一週間前までに、その旨を税理士に通知しなければならないこととする。

(理由) 税務調査において、税理士に立会いの機会を保障するため、税理士の権利として、税務官公署は、税理士の関与する事案についての調査にあたっては、その通知を代理権限を有する税理士に対して、一週問前までに行なわなければならないことを明確にする必要がある。


3. 意見の聴取

 税理士が委任状を提出した事案について、税務官公署が、更正または決定もしくは不服申立てに対する決定または裁決を行なうにあたっては、税理士の意見を聴取することとし、意見を聴取せずに行なった処分は、取消の原因となることとする。

(理由) 現行税理士法第35条では、計算事項等を記載した書面を添附した申告書について更正する場合と、審査請求事案について調査する場合とに限り、税理士の意見を聴取することとしているが、この意見の聴取の有無は、処分の効カに影響を与えないこととされている、これは、税理士の権利を有名無実としているので、上記のとおり改める必要がある。


4. 処分の通知

 代理権を有する税理士が、関与した事案についての更正 または決定、もしくは不服申立てに対する決定または裁決の通知は、税理士に対して行なうとともに、その副本を納 税者に送付することとする。

(理由) 税理士の代理権を尊重する見地から当然のことであるが、現行法では、納税者にのみ通知されているため、代理人である税理士が知らずにいて、不服申立期間を徒過するなど、納税者の権利を十分護りえない場合もおこりうる。代理人である税理士に通知すれは、このようなこともなくなり、納税者がその権利を行使する機会を失うような事態を防ぐことができる。


5. 書類の説明、閲覧、謄写および撮影の請求

 代理権を有する税理士が、その関与する事案について税務官公署の処分を受けたとき、当該処分を行なった税務官公署に対し、処分の理由となった事実を明らかにする証拠資料および調査事績を記録した書類等について、説明、閲覧、騰写および撮影を請求したときは、これを拒むことはできないものとする。

(理由) 税務官公署が行なつた処分の内容を検討して、事実誤認または法令違反の有無を調査する機会を税理士に与えることは、納税者の権利を擁護するとともに、納税義務の適正な実現をはかるために、きわめて必要なことである。この場合の処分には、不服申立ての対象となるすべての処分が含まれるものとする。


6. 報酬の制限

 報酬は、日本税理士会連合会が定めることとする。

(理由) 税理士会の自主性を尊重して、その自治に委ね、会則等で定めることが妥当である。


7. 事務所設置の義務

 税理士は、税理士業務を行なうため、事務所を設け、税理士事務所と称することとする。また、いかなる場合でも、事務所を2以上設置してはならないこととする。

(理由) 事務所の名称は、非税理士排除のために統一し、また、税理士の資格は一身専属的であるから、税理士事務所は、税理士自身が執務する場所に限定すべきであり、2以上の事務所を設置することは禁止する必要がある。


8. 帳簿作成の義務

 現行税理士法第41条(帳簿作成の義務)を削除する。

(理由)税理士会の自主性を尊重し、会則等に委任することが妥当である。


 

第8 税理士の懲戒と税理士会の自主性

1. 懲戒およびその救済

(1) 懲戒処分

(イ) 懲戒処分は、日本税理士会連合会に別に設ける懲戒委員会の議決により、日本税理士会連合会会長が行なうものとする。

(ロ) 懲戒委員会は、懲戒処分に関する議決を行なう場合、必ず事前に、当該税理士に弁明の機会を与えなければならない。


(2) 救済

(イ) 懲戒処分に対する不服申立ては、日本税理士会連合会に別に設ける不服審査会に対して行なうものとする。

(ロ) 審査および決定は、不服審査会の決議により、日本税理士会連合会会長が行なうものとし、議決を行なう場合には、必ず事前に、当該税理士に意見を述べる機会を与えなければならない。

(ハ) 日本税理士会連合会が、不服審査会の決定にもとづいて行なった処分に対し、なお不服のある者は、東京高等裁判所にその取消の訴えを提起することができる。

(理由) 納税者の権利を擁護することを使命とする税理士に対する懲戒の権限が国税庁長官に属することは、税理士制度の本来の趣旨と相容れないものであり税理士の社会的使命を全うするため、上記のとおり改正することが必要である。


2. 懲戒処分の効力発生の時期

 懲戒処分を受けた者が救済を求めたときは、懲戒処分の効力は、裁決または判決の確定したときに生ずることを明確にする。

(理由) 従来、懲戒処分を受けた者が行政不服審査法または行政事件訴訟法により救済を求めたときは、その裁決または判決の確定したときに処分の効力が発生するものと解されてきた。これは、懲戒を受けた者の人権尊重という観点からはもっとも適切なものである。


3. 現行税理士法の懲戒に関する規定を整備する。


4. 除斥期間 除斥期間を3年とする。

(理由) 現行税理士法では、懲戒処分について時効ないし除斥の規定がないため、何年経過したことでも遡及して懲戒処分を行なうことができる。これは、人権尊重のうえからも重大な問題であり、憲法違反のおそれさえある。


5. 登録抹消請求の制限

 懲戒処分の手続きに付された税理士は、その手続きが結了するまで登録抹消の請求ができないこととする。

(理由) 懲戒処分により税理士業務の禁止の処分をうけた者は、その効力が発生すると税理士の資格を失うので登録が抹消される。ところが一方、業務を廃止したいというみずからの届出によって登録の抹消を請求することができる。この場合には、業務禁止の場合に3年間再登録できないのに対し、業務を再開することによっていつでも再登録できる。そこで、懲戒処分によって税理士業務を禁止されそうになったとき、これを逆用されるおそれがあるので、それを防止するため、懲戒処分の手続きが結了するまで登録の抹消を講求できないこととする必要がある。


6. 大蔵大臣の監督権

 大蔵大臣および国税庁長官の権限をつぎのように改正する。

(1) 税理士会の会則および会則変更(重要事項に限る)は、日本税理士会連合会の承認による。ただし、大蔵大臣が必要と認めたときは、日本税理士会連合会に報告を求めることができる。

(2) 税理士会の総会の決議および役員の就退任は、日本税埋士会連合会に報告する。

(3) 日本税理士会連合会の会則および会則変更は、大蔵大臣が必要と認めたときは報告を求めることができる。

(4) 日本税理士会連合会の総会の決議および役員の就退任は、大蔵大臣が必要と認めたときは、報告を求めることができる。

(5) 資格審査会委員、懲戒委員会委員および不服審査会委員の委嘱は、大蔵大臣が必要と認めたときには報告を求めることができる。

(6) 税理士会および日本税理士会連合会の総会の決議の取消および役員の解任についての大蔵大臣の命令権は廃止する。

(7) 大蔵大臣の税理士会および日本税理士会連合会に対する一般的監督の規定は廃止する。

(8) 税理士に対する監督上の措置は、大蔵大臣が必要と認めた場合に日本税理士会連合会を通じて報告を求めるだけにとどめ、当該職員による税理士に対する質問、検査の権限は廃止する。

(9) 日本税理士会連合会会長および税理士会会長は、税埋士業務の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士から報告を徴し、税理士に質問することができる。

(理由) 税理士は、租税に関し、国民の権利を擁護すべき使命を有し、また納税考の代理人として、その納税義務を適正に実現すべき責務を有しているのであるから、その使命を全うするためには、税務官公署とはつねに対等の立場になければならない。

 現行法のように、税理士ならびに税理士団体が相手機関の強い監督権に服しているのでは、上記の使命達成のうえに大きな障碍となるばかりでなく、税理士制度の本質そのものをも歪められるおそれがある。

 したがって、国税庁長官の税理士に対する監督権を全面的に排除して、稜理士に対する監督権は、税理士団体である日本税理士会連合会が保有することとし、税理士の自主性と自律性を尊重するするとともに、税理士団体に対する大蔵大臣の監督権も必要最少限にとどめるべきである。また、懲戒委員会、不服審査会をあらたに別に設ける必要があるので、資格審査会を含めて所要の規定を整備すべきである。


7. 総会招集の事前報告義務

 税理士法施行令第8条の、総会の招集事前報告義務を廃止する。

(理由) この規定は、税理土会の自主的運営をそこなうので廃止する。


 

第9 税理士業務の制限等

1. 臨時の税務書類の作成等

 廃止する。

(理由) この制度は、緊急事態の発生、もしくはこれに類するその他特別の必要に備えて設けられた例外的制度であるにもかかわらず、その運用の実態は全く相反したものとなっている。 現在、税理士の数は、税理士法立法の当時と比較して遥かに増加しており、また、税理士会の組織を通じての小企業ないし零細納税者の指導、援助にかなりの成果をあげている。緊急事態の発生等必要があれば、税理士会の責任において、これに対処することは十分可能である。
 したがって、この制度を存置する必要がない。


2. 税埋土業務を行なう弁護士

 廃止する。

(理由) 弁護士法においては、弁護士は、当然、税理士の事務を行なうことができることとなっており、これをうけて、税理士法は、税理士業務を行なう弁護士は、所属弁護士会を通じて国税局長に通知することとなっている。しかし、税理士業務は、その使命から、税理士試験に合格し、税理士の資格において、税理士会に入会して行なうべきであり、税理士業務の統一的な運用という根本的観点からこれを廃止すべきである。


3. 公認会計士たる税理士の特例

 廃止する。

(理由) 税理士業務は、その使命から、税理士試験に合格し、税理士の資格において、税理士会に入会して行なうべきである。監査業務を目的とする公認会計士制度から判断して、公認会計士と税理士は異質なものであり、税理士業務の統一的運用、税理士会の自主性ならびに秩序の保持のために廃止すべきである。


4. 公務員であった者の税理士業務の制限

 離職後2年間は、離職前2年間に在職した税務官公署の管轄地域の納税義務者について税理士業務を行なってはならないこととする。ただし、国税庁および国税局の職員であった者については、日本税理士会連合会会長の承認をうけた事案については例外を認める。また、離職後2年間に関与した業務の内容を税理士会会長に報告することを義務づける。

(理由) 現行税理士法第42条は、公務員の地位利用による在職中ならびに離職後の不法行為を排除することを目的としたものであるが、現行税理士法第42条の規定が全くその機能を果していないために、最近、社会的にも非難の多い退職時の地位等を利用しての不当な業務の拡張が跡をたたない。そこで、期間制限を延長し、業務制限の範囲を明確にすることが必要である。また、この業務制限を保障するため、業務についての報告義務を設ける必要がある。


5. 税理士業務の制限

 税理士業務の制限についての第52条の規定をつぎのように改める必要がある。
 「税理士でない者は、税理士業務(附随業務を除く。)を行ない、またはこれらの周旋をすることを業としてはならない。」

(理由) 現行法では、税理士事務を周旋することを業とする者を排除する規定がない。そこで、弁護士法にもならい、税理士事務を周旋することが税理士法違反となることを明確にするため、この趣旨の規定を設ける必要がある。
 現行法には、「税理士会に入会している」の字句があるが、登録即入会の制度に改められると、「税理士会に入会していない税理士」は存在しなくなるので、この字句を整備する必要がある。


6. 税理士の業務制限

 「税理士は、税理士以外の個人の使用人、または法人(これに準ずるものを含む)の役員、もしくは使用人として、これらの者の業務の一環として税理士事務を行なってはならない。」こととすべきである。

(理由) 税理士でない者は、税理士業務はできないのであるから、税理士を雇用して、その税理士に税理士事務を行なわせる形態をとっても、使用者は税理士業務を行なうことはできないことは明らかであるが、なお一層この点を明確にするために、税理士の側から倫理規定の一部として、税理士以外の個人または法人の使用人等として、これらの業務の一環として、税理士事務を行なってはならない旨の規定を新設する必要がある。


7. 非税理士等との提携の禁止

 「税理士は、税理士業務の制限(現行税理士法第52条)、名称の使用制限(現行税理士法第53条)の規定に違反するものから業務の周旋をうけ、またはこれらの者に白己の名義を利用させてはならない。」こととすべきである。

(理由) 税理士業務の制限の規定に、周旋を業とすることも追加して税理士法違反とすることにしたのであるが、なお、税理士の倫理規定として、税理士の側から、業務の周旋をうけ、または自己の名称を利用させてはならない旨を明確にする必要がある。